2008年5月18日日曜日

トレードマークの使用に関する新しいTOS(3)

前回の記事から時間がたってしまいましたが,トレードマークのことについて,引き続いて取り上げていきたいと思います。


9 TOSによる契約上の拘束力

前回まで,商標についての法律上の効力について説明しましたが,これとは別に,TOSに同意したことから,これに従うべき契約上の義務が発生しています。こうした利用契約は,附合契約(契約において、一方的当事者の作成した契約条件に対して、契約するか、契約しないかの自由しかない契約)というもので,その効力については,古くから議論されてきたものです。大雑把にいって,今日では,契約自由の原則に照らして,基本的には拘束力を認めつつ,消費者保護等の観点から,効力に制限を設けていくという観点で処理されているようです。昔のTOSにあった仲裁条項について,非良心的として無効とした連邦地裁の判決がありましたが,これも,そういう観点からの判断といえます。

このTOSが日本法の枠内で議論されることは少ないかもしれませんが,日本法が適用される場合には,消費者契約法のほか,民法の一般条項(権利濫用,信義誠実の原則など)に照らして,その拘束力の範囲が制限される可能性もあります。

そうした制約があるとしても,一応,TOSに同意したことによって,基本的な契約上の義務が生じているという前提で,以下,説明していきたいと思います。

まず,トレードマークに関するTOSの効力が及ぶ範囲ですが,セカンドライフ内での活動全般,例えば,オブジェクトの名称,バーチャル広告,グループ名,アバター名などにこれが適用されることは明らかで,TOSに違反して,トレードマークを使用すると,その違反の程度によっては,該当オブジェクトの除去,グループの消去などの処分がされる可能性があり,重大な違反については,他のTOS違反と同様にアカウントの停止や剥奪などの処分がされる可能性があります。

問題は,この拘束力がセカンドライフ外の活動にも及ぶかどうかですが,トレードマークの保護の必要性に関しては,セカンドライフの中か外かは関係がないと思われますし,TOS上もセカンドライフ内の活動に限定しておらず,ドメインネームなどについても規制の対象としていることからみて,セカンドライフ外の活動にも及んでいることは明らかだと思います。もっとも,セカンドライフ外の行動に関しては,リンデン側において,実効性のある規制が困難だとは思いますが。

10 ガイドラインの内容

トレードマークのガイドラインについては,このリンクを参照してください。


まず,Unauthorized Uses of Linden Lab's Trademarksとして,基本的にリンデン側からみて許容できないトレードマークの使用例が載っています。

前々回,商標権の侵害について,米国法上は,商品又はサービスの出所,提携関係又は後援関係について混同を生じさせる蓋然性があるかどうかで侵害になるかどうかを決めているということを書きましたが,上記のガイドラインはそうした違反行為をすべてカバーするとともに,商標の識別力を弱まらせる行為(希釈化)をも防止しようとしていることが分かります。

これを読んでいただければ分かると思いますが,禁止例の日本語表記として,「第二の人生 (no Japanese equivalent)」とあるのが笑えます。それでは,「セカンドライフ」はどうかということですが,Japanese equivalent(同意語)として,禁じられてはいると思います。そうであれば,例としては,「セカンドライフ(no Japanese equivalent)」とした方がよかったと思います。なお,「セカンドライフ」は,このリンデンの仮想世界が広まる前から,定年後の第二の人生という意味で使用されることが一般的と思いますが,この意味での使用については,当然のことながら許容されているものと思われます。

リンデンラボは,上記のようにSecond Life®などのトレードマークの使用については,厳格な態度を示す一方,セカンドライフ関連の事業活動を表記するのには,基本的に「SL」または「inSL」という表記を使ってグループ名や事業名などを表示することを認めています。その使用のガイドラインは,このリンクを参照してください。


その解釈ですが,要するにリンデンラボ本体の事業と誤認混同しないようにということ,また,リンデンラボと提携関係や後援関係にあるとの誤認混同も生じないようにとの観点で,ガイドラインが決められているものと思われます。

例1 SL+当該個人又は団体を表示する固有の名称による名称はOK
   Dell SL
   Dell inSL
   はOK
   
例2 SL+2つ以上の一般名詞を組み合わせた名称はOK
   SL Budget Shopping Guide
   Chic Clothing Boutique inSL
   はOK
   
例3 SL+1つの一般名詞を組み合わせた名称はNG
   SL Shopping
   Clothing inSL
   はNG
   
例4 上記によってOKであっても,リンデンラボのサービスなどと誤認混同するおそれがあるような場合はNGとされます。
   SL Land Auctions
   SL Avatar Skin
   SL Avatar Clothing
   SL Source Code
   SL Viewer Software
   はNG

例2がよくて,例3がだめな理由がわかりにくく,例3でも,具体的にリンデンラボの事業と誤認混同するおそれがないなら,いいじゃないかという意見もあるかもしれませんが,例3では,一般的に誤認混同のおそれがあると思ったのかもしれません。

では,SL総合研究所はどうなの?というご意見があるとおもいますが,SL「総合」「研究所」で,SL+2つ以上の一般名詞を組み合わせた名称であり,かつ,リンデンの事業との誤認混同のおそれもないので,たぶん大丈夫だと思います。えっダメ?まあ,マジで「仮想世界研究所」とかにしようかとも思いましたが,めんどうだからいいや。どうせ,こんなブログ,リンデンの人は見てないでしょうしw

今回のTOS変更でブログ名やセカンドライフ内でのグループ名を変更した人も知っていますが,心配ならリンデンに問い合わせてみるのがよいと思います。

11 文章中での使用

自己のサービスや商品などの名称として使用するのではなく,ブログなどの文章中で他人の商標を記述的に使用しても,それ自体は,商標権の侵害になるわけではありません。ただ,この場合も,ブランド名などが正しく使用されないと,ブランドイメージの阻害の問題がありますし,希釈化の問題もあります。

リンデンラボもそのような観点からと思われますが,文章中での使用についてもガイドラインをもうけています。 大文字小文字の別やハイフォンのあるなしなど,できるだけ正確にトレードマークを使用するようにとしています。でも,これ厳格に守るのめんどうですね。まあ,適当でいいか(いいのかw) あんまりうるさいこというなら,もう,セカンドライフのブログなんて,やめようっと

まだまだ,書き足りないことが多いし,勉強不十分なところもありますが,トレードマークのことについては,これでひとまず記事を終えたいと思います。