2007年7月31日火曜日

ギャンブル全面禁止の理由

リンデンのギャンブル禁止方針については,反発の声も大きいようです。
SL-Newspaperの記事

リンデンを責めるのは筋違いであって,インターネットギャンブル禁止法を立法した米議会を問題とすべきであるとする見解もあります。
Second Life Heraldの記事


ところで,リンデンラボはどのような理由からセカンドライフ内のギャンブルを一般的に全て禁止したのでしょうか?
公式ブログの記事を何度か読んだのですが,英語力がないためか今ひとつ理解できません。

Safe Port Actのインターネットギャンブル禁止条項(インターネットギャンブル禁止法)は,個々のギャンブルのプレイヤーの行為を直接に規制するものではないようです。
金融機関がオンラインギャンブルサイトとの出入金のやりとりをすることを禁止したり,インターネット事業者がオンラインギャンブルサイトを運営したり,ユーザーを誘導したりすることを禁止するものです。
当然のことながら,リンデンラボは,オンラインギャンブルを提供していないという立場をとってきましたし,今回の公式ブログでもそのことに言及してあります。

また,この法律はその規制目的からいって「善良な合衆国民をインターネットギャンブルの害悪から保護するもの」で,米国外の人同士がやるものであれば規制対象外のはずです。
(細かい話ですが,これは連邦法なので,同一州民同士の賭けは規制していません。それはその州の立法政策の問題であって,連邦の問題ではないからです。もちろん,州法違反になる場合はあります。)

リンデンラボは,従前,カジノの広告を禁止するだけの措置をとっていましたが,その前提としてこれまでの運営が違法ではないという立場をとっていたように思います。

それにも関わらず,全面禁止しなければならない理由はなんでしょうか?公式ブログを読んでも,これが違法だから禁止するとは言っていないように思います。
公式ブログのFAQを読みますと,リンデンのビジネス上の必要という言葉で正当性を説明しようとしている一節が鍵になるような気がします。

多くのカジノがセカンドライフ内で営業していましたが,セカンドライフでは本人確認を厳格にやっているわけではありませんから,事実上米国民がやりたい放題できるようになっていたことは否定できないように思います。これを容認するとインターネットギャンブルを規制した効果が減殺されます。リンデンがそのような状況を認識しつつ,何も規制しないということであれば,事実上誘導しているのと同視できるという解釈が成り立つ余地があるかもしれません。また,決済にリンデンドルが使用されている点も問題になります。法的にグレーな領域だと思いますが,結局,リンデンラボは米司法当局と戦うのではなく,厳しく規制することによって,法的リスクを回避し,「良識ある米国市民」からの社会批判も封じようと考えたのではないかと思われます。もちろん,司法当局と取引があった可能性もあります。

カジノ経営者はリンデンラボのよいお客でしたから,当然に経済的損失を考慮しなかったはずはありません。しかし,セカンドライフがより成長するために,目先の利益ではなく,できるだけ法的規制や社会批判を受けないようにしようと考えたのかもしれません。

もはやセカンドライフはセックスとギャンブルが売りのゲームではないと言いたいのでしょう。

そうすると,性的表現についても更に規制がされる可能性が否定できません。これは前にも取り上げたことですが,この世界がより多くの人の目に触れるようになるにつれ,今後リンデンの規制が厳しくなっていき,普通の「健全なゲーム」と同様になってしまうかもしれません。

casino worldというsimの現在の状況
野原になっています。

2007年7月29日日曜日

情報処理推進機構のレポート

ネットを巡回していたら,独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のニューヨーク事務所からのレポートに「仮想世界を巡る法制度的な議論」と題して,セカンドライフの法制度上の問題(著作権や課税問題)などを取り上げているのを発見しました。

「仮想世界を巡る法制度的な議論」

このブログで取り上げた話題とも関連する議論がされていて,興味深いのでリンクしておきます。

これは4月のレポートですが,検索能力が低いためか,今ごろ気がつきました。

2007年7月27日金曜日

セカンドライフ内のギャンブル規制

急にブログの更新頻度が高まりましたが,ただの気まぐれです(w)

リンデンラボはセカンドライフ内でのギャンブル行為を禁止する方針を打ち出したようです。
公式ブログの記事

規制対象となるものは,
偶然によって勝者が決まるか,現実世界のスポーツの結果によって勝者がきまるもので,勝者にリンデンドル又は現実世界の通貨が与えられるものと定義されています。
バカラ,ブラックジャック,ポーカー,スロットマシーンなどが例示されています。野球賭博などスポーツの結果への賭けも含まれるようですね。

これに違反したら,関連するオブジェクトの除去,アカウントの停止又は剥奪などの厳しい処分がされるとのことです。

リンデンは米国で成立したインターネットギャンブル禁止法を意識して,カジノの広告を禁止していましたが,今回,ギャンブル自体を禁止するという方針を打ち出したのは驚くべきことと思います。

前に性的表現の規制でも書いたのですが,このゲームの認知度が高まるにつれ,社会批判を恐れて,リンデンラボは,最も厳しい国の基準を採用しようとしているように思われます。

2007年7月26日木曜日

著作権侵害に対するリンデンラボの態度(補足)

前のブログを書いた後,ネットを巡回していたら,
古いものですが,リンデンラボの関係者が著作権侵害についてインタビューに答えている記事を発見しました。

4Gamer.netの記事(2006/09/29)

この記事,前に見ているはずなのですが,当時はセカンドライフに興味がなかったので読み飛ばしていました。

「著作権問題にはどう対処するのか?」という問いに対して,
リンデンのCTOであるCory Ondrejka氏は,
リンデンは,そうした紛争には関わらず,要請があればDMCAによって処理するとしています。
また,場合によって侵害者のIPアドレスを著作権者に渡したりするような対応をするなどとしています。

前々回のブログで取り上げたEros訴訟での開示命令へのリンデンの対応が注目されていますが,上記の答えによれば,IPアドレスを開示することになるのかもしれません。

hikoさんのブログで取り上げられたリンデンの応対ぶりも上記の答えのままですね。

著作権の間接侵害による責任追及の可能性

前回,ユーザー間訴訟のことを書きましたが,
日本人のWebサイトでも,セカンドライフ内の著作権侵害が取り上げられているのを目にするようになりました。

参考サイト
つくらない人のためのSecond Life
うのまらま


このような場合,直接侵害者を訴えることの困難さについては,前回のブログで取り上げたとおりです。
それに,せっかく被告を特定して勝訴判決をもらっても,被告に強制執行される財産が何もなければあまり意味がありません。偏見かもしれませんが,セカンドライフのようなゲーム内で著作権侵害を行っているような人に大した財産があるようには思えません。このへんも最終的に問題となります。

それでは,リンデンに何らかの責任を追及することはできないのでしょうか?
リンデンは,素性はよく分かっていますし,勝訴したら取りはぐれがないでしょうから,もし責任を追及できたら,ユーザー間訴訟のような困難さはないと思われます。


著作権の間接侵害の責任追及に関しては,
ViacomがGoogle(YouTube)に10億ドルの損害賠償を求めた訴訟が注目されます。
japan.internet.comのニュース
GoogleはViacom の訴えに対する反論として,デジタルミレニアム著作権法(DMCA) の512条を持ち出そうとしているようです。これはセーフハーバー条項と呼ばれていて,著作権者の正式な届出に対応して著作権を侵害しているコンテンツを削除すれば,法的責任が免除されるというのが基本的内容となっています。Googleがこの条項の適用を受けるかどうかについては,様々な議論があるようですが,リンデンに間接侵害の責任追及をする場合にも,この条項が問題となる可能性があります。


hikoさんのブログを見ていますと,リンデンは,DMCAに基づく“Notice & Take Down”による削除手続で対応しており,このような手続に従っている限りは,セーフハーバー条項の適用を受けるということを前提としているようです。

したがって,リンデンの責任を追及するためには,例えば,ソフトの欠陥によって違法コピーを容易にしたとか,Copybotのような規約違反のツールの使用によって著作権侵害がされているのを知りつつ,有効な対応をしなかったなど,より積極的な関与があることが立証されないと法的責任追及は難しいと思われます。もっとも,単にバグがあるというだけでは法的責任を追及することは困難でしょう。それを知りつつ,容易に是正できるのにしなかったなどということが必要と思われます。

ただし,法的な責任は免れても,もし,著作権侵害が横行し,リンデンが不十分な対応しかしないとなると,このゲーム自体がユーザーから見捨てられる可能性があります。リンデンにそういった問題意識があるかどうか分かりませんが,著作権が保護されることをゲームのセールスポイントにしているのですから,リンデンの姿勢が問われていると思います。

2007年7月21日土曜日

ユーザー間訴訟の問題点

リアルが多忙で更新が滞ってしまいました。

ついにセカンドライフ日本語版ベータが出ましたね。
更新していなかった間に,そのほかにもいろいろなことがありましたが,
私が注目していたのは次の裁判の動きです。
ロイターの記事


1 事件の概要

アダルトコンテンツの企業Eros LLCを経営するKevin Alderman(SL名Stroker Serpentine)が,SexGen Bed(sexアニメがたくさん入ったベッドのようです)を違法に複製されて販売されたとして,SL名Volkov Catteneoをタンパの連邦地方裁判所に訴えました。

Volkov Catteneoの実名が不明であるため,被告をJohn Doe(名無しの権兵衛)としてあります。Alderman側の弁護士によれば,リンデンラボ,ペイパルに対して,裁判所の令状を得て,Catteneoの個人情報,チャット履歴,経済取引上の記録などの開示を要求し,被告を特定していく計画のようです。

しかし,Catteneoは,ロイターのインタビューに答えて,「リンデンラボのファイルには自分の本名は登録されていないし,自分は実世界で固定した住所を持ったこともない。」などとうそぶき,追及の手が自分に伸びることはないとしているようです。

2 ユーザー間訴訟の問題点

セカンドライフが発展拡大していくにつれて,著作権侵害などのユーザー間の紛争も増えていくことが予想されます。しかし,これを裁判に持ち出すためには,大きな問題があることがわかります。
それは,被告を実社会で特定する必要があるということです。
被告の実名と住所が分からなければ,裁判所からの呼出状などの書類を送達することができませんし,そうなれば有効に裁判を始めることができないと思われます。

この問題は,セカンドライフに特有の問題ではありません。例えば,匿名掲示板での名誉毀損など,インターネットの中では,権利侵害を受けても,侵害者を特定できないという問題がつきまといます。このため発信者情報の開示が問題になっているのです。日本でプロバイダー責任制限法が施行され,発信者情報の開示請求が定められたことはご存じの方も多いでしょう。日本でも発信者情報の開示を巡って,いくつもの裁判や仮処分がされているようです。

米国では,Eros LLCの訴訟のように,まず,仮名訴訟を提起した後,裁判所の命令を得て,Webサイトの管理者等に対して,発信者情報の開示を求めることになるようです。この開示命令は,比較的容易に形式審査で発令されるようです。
参考サイト


3 裁判のその後の動き

ペイパル(Paypal)は,裁判所の命令に応じて,Catteneoの個人情報を開示したそうです。
ロイターの記事


開示された個人情報の詳細はわかりませんが,ペイパルの規約によれば,住所,氏名,銀行口座,クレジット番号,IPアドレスなどが含まれるようです。
ペイパルに登録された住所,氏名は,真実かどうか怪しいかもしれません。
これが捜査機関であれば,さらに銀行やクレジットカード会社などを捜査していけば,個人の割り出しができるのでしょうけれど,民間人がそれをやるのは大変ですね。
なお,IPアドレス(とタイムスタンプ)から使用プロバイダが特定され,その登録情報からもPCを特定することが可能なようです。日本のネット犯罪の捜査などではその手法で被疑者を特定しているようです。

リンデンラボも,ペイパル同様に開示命令を受けており,対応が注目されます。
ただ,情報が開示されても,Catteneoは多分偽名で登録してあるのでしょうから,個人の特定は期待が薄いかもしれません。
問題はチャット履歴などが開示されるかどうかですね。