2007年6月28日木曜日

セカンドライフと税金

1 世界の課税の動き
セカンドライフなど仮想世界の経済取引に対して課税が検討されているようです。

例えば,米上下両院合同経済委員会は,近くネット上の仮想社会での経済活動を通じ、個人や企業が得た収益への課税ルールなどに関する調査報告をとりまとめるとのことです。
ITmedia Newsの記事

オーストラリアでの動き
Fairfax Digitalの記事

イギリス政府も米国での調査報告に注目しているようです。
REUTERSの記事

みずほコーポレート銀行の試算によれば,セカンドライフの経済規模(仮想通貨総取引量)は,2007年は約1350億円と見込まれ,2008年には1兆円を超すと予想されています。
この数字は小さな国家のGDPに匹敵する数字となります。このように大量の仮想通貨が流通している以上,国家による課税の動きは当然に予想されたことといえそうです。

2 日本の現行法下での課税の可否

ところで,日本の政府が,こうした仮想世界の経済取引に対して,どのような態度をとっているかが気になるところですが,私が知る限り,今のところ目立った動きはないようです。

ところで,現行法の下でセカンドライフ内の収益に課税することはできないのでしょうか?

例えば,ある個人が,セカンドライフ内でSIMをレンタルしているとします。賃料は,リアルマネーで払ってもよいし,リンデンドルで支払ってもよいという契約になっているとします。その個人が,平成19年度に得た賃料収入の総額が,現実通貨で1000万円,リンデンドルで円換算1000万円とし,リンデンは年度内では未だ現実通貨には交換していなかったものとします。

この場合,現実通貨の収入が課税対象となるのは当たり前のことですが,問題はまだ現実通貨に交換していないリンデンドルの方です。これが収入となるならば,賃料収入だけで2000万円の収入として申告する必要があります。

仮に,リンデンドルを現実通貨に交換した段階で初めて収入となるならば,例えば,次年度にはSIMを新たに大量購入することが予定されるなど,経費が増加することが予想される場合,リンデンを交換する時期を意図的に次年度にずらすことによって,全体の納税額を下げることが可能となります。

所得税法はどうなっているでしょうか?

所得税法36条によれば,
1 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は,当該物若しくは権利を取得し,又は当該利益を享受する時における価額とする。
となっているようです。

ここで問題となるのが,「金銭以外の物又は権利その他経済的利益」という文言です。
従業員に対する現物給与や無償又は低額で貸与された住宅や食事の支給などがこれに当たります。
従業員にストックオプションを付与したときの課税について訴訟で争われたことを知っている方もいると思います。

この文言を素直に読めば,リンデンドルによる収入は,まさに,「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に該当するといえそうです。

まだ,税務当局がこれについての見解を明らかにしたとは聞いていませんが,諸外国が仮想社会での経済取引への課税の動きを見せる中,日本政府だけが傍観していることはなさそうです。

SL内企業はどんな法人税申告をしているんでしょうか?気になるところです。

以上は,所得税,法人税などの所得課税での問題ですが,
消費税においても,同様のことがいえます。

消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額,すなわち,資産の譲渡,資産の貸付けや役務の提供について受け取る金額又は,受け取るべき金額ですが,この金額は,金銭で受け取るものに限られず,金銭以外の物や権利その他経済的利益の額が含まれます。

もっとも,私についていえば,SL内で物を買ったとき,消費税(相当額)を支払った記憶はないですね。販売者の方々は消費税はどうしていらっしゃるのでしょうか?

海外法人のサーバー内の取引であることから,まじめに申告しなければ,日本の税務当局に把握されにくい取引であるように思います。ここらへんも問題になるでしょう。

2007年6月17日日曜日

CDSの自治政府

前回バーチャル裁判所のことを書きましたが,
セカンドライフ内で既にそのような試みをしているところがあるようです。

Neufreistadt及びColonia Novaという2つのsimが属するThe Confederation of Democratic Simulators(CDS)という組織では,民主的な自治政府を組織し,憲法などの立法をしているほか,司法組織を作って,住民間の紛争を解決しようとしているようです。

CDSのWebサイト

面白そうだったので,実際にNeufreistadtを訪れてみました。













街の中心部の様子


ここでは,土地の利用規則がかなり厳格に定められていて,
町並みがとても整っています。
西欧的ですね。

地上150ないし170mに位置するので,霧が漂っています。
これは多分その効果を意図して高い位置に町を作っているのでしょう。
西欧の古い町並みという雰囲気がでています。














会議場の様なところに出ました。
ここで,立法その他住民会議が行われるのでしょう。

私が訪れたときは,ちょうどヨーロッパの早朝だったためか,
街に住人の姿はありませんでした。

整然とした町並み
整然とした自治組織
住民は幸せなのでしょうか。

同じ建物の中に次のような掲示を見つけました。














右横は,霧の消し方を書いています。
霧がいやな住人もいるのでしょう。
少し和みました。

日本では,こういう,かっちりとした自治政府はあまり人気がないかもしれません。
でも,新しい試みとして注目されます。

もっとも,実際には議員の選挙や裁判官の任命は困難な作業なようで
CDSのフォーラムでもさんざん議論をしている様子が窺えます。
やはりそれだけのコストを払う覚悟が必要なようです。

(このCDSの記事については,sheila6225さんからの情報が大変役に立ちました。この場を借りてお礼申し上げます。)

(補足)
よく見ると,下の掲示に写っている場所が会議場みたいです。そうすると,上の会議場と思ったところは宴会場かもしれません。

2007年6月16日土曜日

バーチャル裁判所構想

最近,eBayでリンデンドルを購入したユーザーが、アカウント停止措置を受けたようです。
Second Life 体験&探検の記事
アカウント停止処分を受けたユーザーに何らかの規約違反があったかどうかは不明です。

仮に,不当にアカウント停止処分を受けた場合どうすればよいのでしょうか?
リンデンにクレームを出すことは当然ですが,これが受け入れられない場合は,やはり最後の手段としては,裁判ということになるのでしょう。

リンデンラボの規約では,紛争が生じた場合は,サンフランシスコの国際商業会議所の仲裁によって解決するとなっているようです。
いわゆる仲裁条項というものです。仲裁とは、当事者が,私人である第三者をして争いを判断させ,その判断に服することを合意し,その合意に基づき紛争を解決する制度をいいます。この合意があると,仲裁手続によらずに,いきなり訴えることはできないことになります。

ところが,この仲裁条項について,最近,連邦裁判所で,この条項の効力を否定する判決がされました。
The Secondlife Newspaperの記事

一般消費者とのオンライン契約に関して,こうした仲裁条項が非良心的とされて,効力を否定する判決はほかにも出ているようです。
参考サイト

非良心的とは,法律用語で,アメリカの多くの州で採用されている統一商事法典によれば
「裁判所が, 契約または契約条項が契約締結の時点で非良心的なものであったと認めるときは, 当該の契約を強制することを拒否できる, あるいは, 非良心的な条項を除いた当該契約の残りの部分を強制するか, または非良心的な結果を避けるように非良心的な条項の適用を制限することができる。」とされているようです(正直わかりにくい概念です)。

なお,セカンドライフの規約によれば,
”rights and obligations shall be governed by and construed under the laws of the State of California, including its Uniform Commercial Code,”
(本規約に基づく当事者の)権利と義務は,統一商事法典を含むカリフォルニア州の法律に準拠します。
とあります。

上記の判決によると,いきなり裁判をすることは可能と思いますが,日本からはどうでしょうか?
サンフランシスコの裁判所に訴えることはたぶん大丈夫です。細かい説明をするのは省略しますが,「原告は被告の法廷に従う」という原則があるといわれています。

日本の裁判所に訴えることはできるのでしょうか?
リンデンは日本に営業所があるわけではなく,日本で積極的に顧客を勧誘しているわけでもないようですので,日本の裁判所はたぶん管轄を認めないでしょう。

そうすると,不当にアカウント停止処分がされても,大部分のユーザーは泣き寝入りということになりそうです。

でも,仮想現実で起こったことなら,仮想現実内で解決することはできないのでしょうか?

無効となった仲裁条項ですが,たしかに,いちいちサンフランシスコにまで行って仲裁手続をすることは,ほぼ不可能を強いるものです。
しかし,セカンドライフ内で仲裁手続をすることにしたら,面白いのではないでしょうか?

バーチャル裁判所の構想です。
セカンドライフ内で仲裁裁判所を作るのです。当然,リンデンから独立した公平な仲裁人が選定される必要があります。

ところで,セカンドライフ内では,リンデンとユーザー間の問題のほか,ユーザー同士が経済取引をしているので,ユーザー間の紛争も当然に生じます。

これについては,また別の問題があるので,後日改めて検討したいと思います。
ただ,これについても仮想現実内の紛争処理手続で解決することができないかと夢想中です。

2007年6月10日日曜日

性的表現の規制

1 発端

私が認識している限り,発端は次のような事件と思われます。

2007年5月3日にドイツのテレビ局が,大人の男性と子供の女性のアバターが性行為に及んでいることを見つけ,これをリンデン・ラボに通報したそうです。
実際にリンデン・ラボが調査したところによれば,アバターを使用していたのは,54歳の男性と27歳の女性であったそうですが,リンデン・ラボは2人をBAN(セカンドライフの利用禁止措置)しました。

国にもよると思うのですが,児童保護の観点から児童を対象とする性行為が規制されることは当然と思います。
でも,大人同士がいわばロールプレイとしてやっているときは,果たしてそこまで規制する必要があるか疑問です。
こうしたものを見て不快に思う人がいるのもたしかですが,閉鎖的空間(入場制限を設け,それを許容する人のみ入場する)でやれば,特に問題ないと思われます。
上記の二人がこうしたプレイが許容されない場所でやったのであれば,BANの対象となってもやむをえないでしょうが,そのような状況だったかどうかはニュースだけではわかりません。

2 リンデン・ラボの規制方針と問題点

 ともかく,こうした特殊なロールプレイ(エイジプレイともいうらしいです。)に対しては,リンデン・ラボは厳しく規制する方向性を打ち出しています。

公式ブログの記事
これによれば,子供を対象とする性的行為,レイプなどの性暴力,生々しい暴力の描写などが規制され(アカウント停止,グループの閉鎖,コンテンツの除去,土地の没収などの制裁が課せられる)というのです。

しかし,セカンドライフはよくも悪くも自由な世界だったから,ここまで発展したと思うのです。
こうした表現は確かに不快ですが,場所を選んで当人たちがロールプレイとして楽しむのなら(リアルでやるわけではないのですから)大目にみてよいのではないでしょうか?
それにリンデン・ラボが規制しようとする対象は,すごくあいまいです。
例えば,上記の規制対象のプレイには,other broadly offensive content(その他明らかに不快なコンテンツ)も禁止するとあります。
この表現は主観的であいまいなもので,運用によっては広範囲に規制が及ぶ可能性があります。
これでは表現の自由に対して,Chilling Effects(萎縮効果)が生じてしまいます。
参考サイト

実際ユーザーの反応は,かなり不評のようです。
セカンドライフ・ヘラルドの記事参照

おそらく,このゲームの社会に対する認知度が高まるにつれ,リンデン・ラボ自身が,いままでのような野放図な状態では社会の批判を受けると恐れているように思われます。
しかし,表現の規制については明確な基準が必要でしょう。
いままでユーザーの自主性を重視するということにしていたのですから,あまりにひどいものはともかく,ユーザー間の相互批判に任せてもよいのではないでしょうか?
ここはゲームの良さを損なわないためにも寛容さを示すときであろうと思われます。

2007年6月4日月曜日

ブログを作った動機

 わたしがセカンドライフで遊ぶようになったのは,そう古い話ではありません。もともと,MMO(Massive Multiplayer Online・大規模多人数オンライン)RPGをいくつかやっていたのですが,セカンドライフのことを最近ネットでよく目にするので,ちょいとやってみようかなと思って始めたのがきっかけです。

 セカンドライフは,これまでのゲームと違って,敵を倒す,レベルを上げる,レアアイテムを獲得するなどのゲーム会社側から提供されるコンテンツは特になく,何をするのも自由です。そこがよくわからないという人もいるのですが,私はけっこう楽しんでいます。アバターの容姿,服,建物,家具などいろいろなものを自分で作れる(その意欲と能力があればですが)のも気に入っています。わたし自身は今のところ,例えて言うなら「どうぶつの森」オンラインのようなものとして,もっぱらコミュニケーションを中心に遊んでいます。

わたしがこのゲームの特徴として重要だと思うのは次のようなところです。

1 商売を含め,何をするのも自由(場所を選べば,カジノやアダルトなコンテンツも可能)
2 RMT(ゲーム通貨とリアル通貨の交換)がゲームの仕様上認められている。
3 ゲーム内オブジェクトの作成が自由にでき,著作権が保障されている。
4 ゲーム内とWEBとの行き来が容易である。

 セカンドライフはもちろん一つの企業が提供するゲームですが,このゲームの人口が増えつつあることと,上記の特徴が相まって,従来のWEBベースのものを超えた新しいコミュニケーションの道具になる余地がある,少なくともその一つの可能性を示していると思います。

 セカンドライフが最近注目されるようになったのは,上記1と2の特徴からビジネスに利用できるというのが大きいと思います。
しかし,それと同時に,上記の特徴から,この世界が様々な社会問題を生み,それが各国政府の規制の対象となる可能性があります。

例えば,上記1の自由性という特徴から,インターネットギャンブルの規制,エイジプレイ等のアダルト表現への規制が問題になります。また,上記2のRMTの問題は,マネーロンダリングの問題,ゲーム内取引に対する課税や法規制の問題となります。上記3の特徴は,著作権保護の問題(ユーザーの著作権の保護,ユーザー側の既存著作権の侵害の問題)となります。

 わたしは,この世界がけっこう気に入っており,なるべくこの自由な雰囲気が保たれることを願っています。同時にこのゲームが犯罪に利用されることがあってはならないとも考えており,過度にならない適正なルールの確立が必要であると考えます。そういった観点から,ブログを立ち上げて,いろいろと議論を提供してみたいと考えたのです。

 自分自身,この世界をまだ十分知っているわけではなく,何ができるのか心許ないところもありますが,力を抜いて気楽に論じていきたいと思います。

 このブログの方向性も含め,ご意見のある人は遠慮なく,コメントかメールを下さい。

追記 2007年7月25日カジノを含め,ギャンブルは全面的に禁止になりました。

2007年6月3日日曜日

先行研究,参考となるサイトなど

1 公式サイト


 まず,情報源として重要なのはリンデン・ラボの公式サイトと思います。
セカンドライフ日本語版(いつになったら出るんだろう。)の公式サイトhttp://secondlife.com/world/jp/


英語版はこちら
http://secondlife.com/


リンデン・ラボ自身のサイト
http://lindenlab.com/



2 文献

日本語の文献はまだまだ少ないです。

公式ガイドには,ゲームの遊び方のほか,セカンドライフの小史なども載っていて,大変興味深いので一読を勧めます。
「セカンドライフ公式ガイド」インプレスR&D 3200円

3 企業・大学などの研究


デジタルハリウッド大学大学院の開設したセカンドライフ研究室(室長 三淵啓自 同大学教授)では,セカンドライフ・トレーニング講座を行っています。
説明によれば,企業向けに技術・ノウハウを講義する講座のようです。
当研究所とは多少志向が異なっています。
http://www.dhsl.jp



みずほコーポレート銀行産業調査部の研究
力作です。現状の認識としては,よくまとまっていると思います。http://www.mizuhocbk.co.jp/fin_info/industry/sangyou/pdf/mif_57.pdf



3 個人のブログなど

Second Life 体験&探検

セカンドライフ内の最近の社会問題にくわしいので,とても参考になります。
http://sheila6225.blogspot.com/index.html

2007年6月2日土曜日

ご挨拶

リンデンラボのゲーム「セカンドライフ」について,
次のような研究会を立ち上げてみました。

研究員募集中です。

設立趣意にあるとおり,ビジネス利用は一切考えていません。
デジタルハリウッド大学や電通のやっているセカンドライフ研究会などとは無関係です。
ビジネスへの利用を考えている人はよそへ行ってください。

ああだ,こうだと適当なことを論じ合うだけでも楽しいと思います。
さしあたり,膨張するセカンドライフ社会の様々な問題点,これに対するリンデンの規制や国家の法規制の問題などを論じてみたいと思います。


「SL総合研究所」


<設立趣意>

1 リンデンラボのゲーム「セカンドライフ」内の様々な事象について,多面的に研究する。

2 企業やビジネスとは一切関係なく,純粋に知的な興味から研究をする。


<活動>
1 セカンドライフの研究

2 研究会の開催

3 研究成果の発表

4 上記に関連する一切の事項


<研究員資格>

設立趣意に賛同する個人