2008年1月28日月曜日

みずほコーポレート銀行によるセカンドライフ調査報告

みずほコーポレート銀行による調査報告<「セカンドライフ」にみる仮想世界の可能性(その2)>が発表されました。

同じ担当者による2007年5月24日付けの報告<「セカンドライフ」にみる仮想世界・仮想経済の可能性>と読み比べると,面白いと思います。

以前の報告が「2008年末には世界総加入者数が2億5000万人に迫る」という過大な予想をしていたのに比べて,地に足がついた現状分析となっていると思います。

新しい報告は,登録者増加率が逓減傾向にあること,セカンドライフ進出がマスメディアに取り上げられることによる副次的な宣伝効果が徐々に減退傾向にあることなどをふまえ,従来の企業利用の問題点や限界を分析しつつ,3D仮想世界の特性と,それに応じた活用の可能性について模索している内容となっています。

書いてある内容に特に目新しいものはないようですが,最近のセカンドライフについて,企業サイドからの見方をまとめたものとしては,よく整理されていると思います。

2008年1月24日木曜日

セカンドライフ日本語公式ページの(英)

LL社からは,「銀行」規制について,前回の公式ブログの発表以上の公式発表はないようですが,セカンドライフ日本語公式ページに,「銀行」規制についての公式ブログの日本語訳(pdf)が載っています。

今回の規制のように,重要なポリシーの変更については,公式に日本語訳を発表してほしいなと思っていましたが,こうした姿勢は評価できます。

利用規約(TOS)を含む,インワールドヘルプについても,最新版の翻訳を載せていただけるとありがたいですね。

最近,日本人利用者数が伸び悩んでいるようです。
LL社は,もう少し緊張感を持った方がよいと思います。
これだけ日本人利用者が増えたのですから,もっと日本語担当者を増やすべきでしょう。

今回の翻訳文の発表は,わずかな前進ですが,評価できます。
日本語公式サイトも,この調子で,タイムリーに更新していってもらいたいと思います。

日本語公式サイトなんだから,リンク先が「(英)」ばっかりってどうよ。

2008年1月19日土曜日

Water Under the Bridge

セカンドライフ内で金利付きの預金受入業務(正確にいうとこうなりますが,面倒なので,単純に「銀行」業務ということにします。)が禁止される1月22日まで数日を残すだけとなりました。

良心的な「銀行」経営者は,預金払戻しを告知し,資産を処分して,払戻しの準備をしているようですが,高金利をうたっていた「銀行」の中には,夜逃げを決め込む者もあるでしょうから,預金の一部は返還されないままとなることが予想されます。預金払戻し騒動が一段落したら,次はリアルの訴訟問題に発展することも予想されますが,リアルで預金の回収を図ることは大変なことだと思います。まず,被告のリアルの人格を特定する作業が大変なことは,これまでの著作権侵害訴訟の記事で取り上げたとおりです。仮に,被告の特定ができても,訴えを起こす場合は,おそらく「銀行」経営者の所属国で訴えを提起することになると思われますので(くわしい説明は省きます。),「銀行」経営者が外国にいる場合はかなりの困難が予想されます。

前回のギャンブル禁止のときも唐突だったように思いますが,ギャンブル禁止の場合は,一般ユーザーへの影響は軽微です。しかし,「銀行」禁止の場合は,預金が返還されないおそれがあるという問題があり,SL経済全体への影響も合わせると,一般ユーザーへの影響は決して小さくないと思います。

このため,禁止の告知から,その発効まで2週間しかなかったのは,周知期間,猶予期間として十分であったかどうか議論の残るところだと思います。

GINKOが破綻して,SL内「銀行」に関して注意を呼びかける記事が公式ブログに載ったのは,2007年8月14日です。それから,今回の規制まで約4か月ちょっとありましたが,この間に「銀行」についての苦情がたくさん寄せられていたということなら,もっと,一般ユーザーに警告を与えるような発表ができなかったのかなあっていう感じがします。この間に,少なくとも公式にはあまり動きがなかったことから,今回の規制が唐突な印象を与えます。この間に,LL社が否定的なメッセージを出し続けていれば,新規に(まっとうな)「銀行」業務を行うようになった人や,それらの「銀行」に預金をするようになった人が,考えを変えた可能性もあります。


また,LL社は,今回の措置を実施する前に,もっとユーザーの意見を聞くべきであったように思います。わたし自身は,リアル法で,消費者保護の観点から,銀行が一般的に免許制であることからして,セカンドライフ内でも一律に禁止して一定の要件を備えた者だけに免許を与えるという方式それ自体は,十分合理性のあるものだと思います。また,LL社は,TOSを一方的に変えたり,リンデンドルの交換等に関して一般的な規制をしたりする権限がありますし(もちろん,リアル法に反しない限りで),セカンドライフ内で「銀行」の名を騙った詐欺的な行為を防止する社会的責任があることも事実ですから,「銀行」規制自体は,十分正当性のあるものだと思います。しかし,どこまで規制するのか,免許の方法など,「銀行」規制の方法などについては議論のあるところですし,4か月も時間があったのですから,もう少し意見を聞いてもらってもよかったのだろうと思います。LL社は顧客満足度を重視していくという方針のようですが,個々のクレーム処理だけでなく,こうした全体に関わる規則の変更などについても,もっとユーザーの意見を聞くようにしてもらいたいと思います。まあ,ほかのネットゲームの運営会社に比べたら,LL社はかなりましな方だと思いますが。

今回の件で一番気になるのは,リアルの銀行免許のある者にだけ,セカンドライフ内で預金を集めることができるとした点です。
リアル法に委ねるといっても,国によって規制は千差万別です。リアルでも簡単に銀行を設立できる国もあるように聞きます。一般的には,消費者保護の観点から銀行設立には厳しい要件を課している国が多いようですが,だとしても,各国で規制が分かれている以上,LL社がきちっと要件を絞って,LL社が判断すべきだと思います。

わたしは,セカンドライフが,ここまで多くの人の支持を集めたのは,ただ企業の宣伝だけじゃなく,ユーザーに自由にコンテンツを作らせ,その自由な販売を認めたところにあると思います。それによって,一つの企業だけでは到底作れないような,たくさんの創造性にあふれる魅力的な世界ができるようになったと思います。そして,今日では,ユーザーの創作能力はとても高くなり,本当に素晴らしい物が作り出され,これが今のセカンドライフの世界を豊かにしていると思います。

セカンドライフのルール作りについても同じことがいえると思います。SIM単位の自治はユーザーに任されているとしても,今回の銀行規制のような全体のルール作り等には,ユーザーの意見は,まだまだ,あまり反映されているようには思えません。しかし,ユーザーの中には,ルール作りとかが得意な人もたくさんいます。政治,行政,経済,法律などの専門家もいます。LL社の職員だけでルール作りを考えるよりも,こうしたユーザーの知恵を生かすべきだと思います。もちろん企業の利益のために譲れない部分もありましょう。でも,ユーザーから意見を募れば,結構,よいアイデアが出てくるかもしれません。ビューアーの機能向上とかについてはJIRAとかで意見を聞いて,開発に反映させているのですから,ルール作りについても,同様のことができないことはないはずです。

2008年1月14日月曜日

増えすぎたランドマークの整理

銀行の話の続編を書こうとおもったのですが,今日は,本当にどうでもいい話です。
毎回,毎回,固いことばかり書けませんって。

セカンドライフをやっていて困るのが,ランドマークの整理です。そりゃあ,あちこち行くたびに,自分で作ったり,人からもらったりして,増える一方ですからね。

みなさんは,ランドマークをどうやって整理していますか?

おそらく,不要なランドマークを消すのは当然として,後は,服屋,スキン屋などのショップ毎,クラブ,ダンスホールとかの遊びスポット毎など,一定のグループ分けしてフォルダを作ってまとめて管理している人が多いのではないでしょうか?

わたしが最近考えついたのは,自分でグループ毎に,ノートカードを作って,そこにランドマークをドロップする方法です。

例えば,campsっていう表題つけたノートカードに,各キャンプのランドマークを優先順位に従って上からドロップして,ノートを作るのです。同じ要領で,skinsって表題で,スキン屋のランドマークをドロップします。この要領で,いろいろできます。

これの利点ですが,ランドマークに添えて,そのランドマークの説明のテキストを書いておけることです。例えば,キャンプのランドマークとともに,「このキャンプは上限30L$」とかいうふうにメモを書いておけます。「この店のブーツはサイコー」とか。「お金たまったら,ここの○○購入!」などでもOK
これで,なんのランドマークだか飛んでみるまでわからないってことはないはずです。
また,お友だちにお勧めの店一覧という形で,説明付きでノートを渡すこともできます。こういうノートをいくつか作って配布するのもいいかも。東京おいしい店ガイドみたいな感じでw

まあ,こういうのをマメにやるのは大変で,わたしも全部整理できたわけではありませんが,今後はこれで整理していきたいと思います。

こんなこと,もうとっくに知ってたよっていわれるかもしれませんが,わたしは今まで気がつきませんでした。ほかにオブジェクトの整理のアイデアなんかあったら,教えてください。

2008年1月12日土曜日

橋の下の水

このブログでは,年末と年始に紛争予防,リスク回避のことを取り上げました。なにか漠然とした予感があったのかもしれません。今回の銀行規制の問題は,それが当たってしまったような気がします。銀行に預けていた人は不安でしょうし,また,まっとうな銀行業をやっていた人は本当にお気の毒です。

前から(今でも),わたしは,セカンドライフ内のお金のやり取りについて不安を感じています。今回の規制では,金利を付けない単なる預り金は禁止されていないようですが,金利が付かないなら,人に金を預ける意味はありません。自分で持っているか,アルトに送るか,使う予定がないなら,手数料がかかってもリアルマネーにしたほうがよいです。

SL株は,今回の規制の対象となるかどうかは,グレーなようですが,セカンドライフの株式会社は,ただの個人のところが多いでしょう。会計もしっかり監査されているか怪しいし,上場されている証券取引所の規則にもよりますが,情報開示も問題があります。出資金を集めたところで計画倒産っていうことだって起こらないとはいえません。くれぐれも自己責任で。

さて,今回の銀行規制について気になったことを少し書いてみたいと思います。一部は,前のブログの繰り返しです。

今回の規制の目的ですが,公式ブログにあるように,実現不可能な高利率をうたい文句にして,元より倒産目的で預金者を欺いてお金を集める行為,こうした「銀行」を称する詐欺行為を放置することは,バーチャル経済の不安定化につながるから,これを防止したいということです。この目的を実現しようとすること自体は,文句を言う人はいないと思います。

そのためにどうするかということですが,規制の内容は次のとおりです。

"As of January 22, 2008, it will be prohibited to offer interest or any direct return on an investment (whether in L$ or other currency) from any object, such as an ATM, located in Second Life, without proof of an applicable government registration statement or financial institution charter." (公式ブログ原文まま)

この文章,あまり良いものとはいえないと思います。

まず,これでは利息を提供することを禁止しているように読めてしまいますが,利息を与える行為自体は,何ら害はないのですから,利息を与えることを約束して投資を受ける行為を禁止するとすべきです(前回のブログでそう解釈すべきだといいましたが,LL社がどう考えているかわかりません。)。日本の「出資の受け入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律」(出資等取締法)でも,金利を与える行為ではなく,預金を受ける行為を禁止しています。

次に,これでは,個人間の取引を対象とするようにも読めてしまいますが,個人間の取引は,上記の規制目的からいって対象としていないと見るべきでしょう。だとしたら,出資等取締法のように「業として」,「不特定かつ多数の者からの金銭の受け入れ」(同2条)を禁止するとすべきでしょう。

最後に,この文章を形式的に当てはめると,配当権のある株式や出資持分などの募集行為も含んでしまうようにも読めます。これを規制する趣旨なら上記のままでもいいのですが,これを規制しないのなら,明確な定義規定を置くべきでしょう。出資等取締法では,禁止対象を投資一般ではなく,「預金,社債」等に限定しています。

それに余計な修飾語は省くべきです。アバター間の直接のやり取りも禁止しないと意味がないので,多分"from any object"は不要でしょう。

"without proof of an applicable government registration statement or financial institution charter"とありますが,何についての政府の認可又は免許なのでしょうか?ここも曖昧です。リンデンドルによる預金というなら,そういう仮想通貨を銀行業の対象としている国は,そんなにあるとは考えられませんから(あるんでしょうか?),ここは,リアルの預金を受ける行為についての認可又は免許を受けていることをいうのでしょうね。しかし,現実通貨の預金を受けることが政府に許されている=リンデンドルによる預金を受けることが政府に許されている,ということではないのですから,ここはおかしい感じがします。LL社が,エントロピア・ユニバースみたいに,財務内容等一定の要件のもとに,セカンドライフ内銀行の免許を与えてもよかったんじゃないかと思います。ただ,見方によれば,すべてのリアルの銀行に対し,セカンドライフ内でリンデンドルで預金を集めてもよいという許可を包括的にLL社が与えたという見方も可能かもしれません。

そのほか,いきなり全面禁止ってどうよ?という手続の問題も書きたかったのですが,文章が長くなってしまったので,次の機会に。

2008年1月9日水曜日

リンデンラボ社はセカンドライフ内銀行を原則禁止

1 はじめに

リンデンラボ社(LL社)は,公式ブログで,セカンドライフ内において銀行業務を実質的に禁止する方針を発表しました。

公式ブログの記事

翻訳サイトの翻訳

2 銀行規制の内容

今回の規制の内容は,要約すると,

① セカンドライフ内において,利息又は直接的な利益を申し出て,投資(リンデンドルであるか,リアル通貨であるかを問わず)を受け取る行為は原則として禁止される。

② 上記規制は,2007年1月22日から施行される。

③ 政府の権限ある機関から適法に認可された銀行が行う場合は許される。

ということになるかと思います。

①は,利息を与える行為自体は,何ら害はないのですから,利息を与えることを約束して,投資を受ける行為が禁止されていると解釈すべきです。

問題は,友人から金を借りるなどの個人間で行う取引でも禁止されるかどうかです。今回の規制が銀行を直接の対象としていることからすると,業として行う場合だけが規制の対象となっているように思えるのですが,文章上は明確ではありません(英語力自信なしw)。「不特定多数から」預金を集めるとか,「業として」とかいう文章にしたらいいのにね。

③の例外として,ほかに,インワールドで金銭の授受をしないで,マーケティングや教育活動を行うだけの場合は除外と書いてありますが,それが規制の対象とならないのは当たり前と思いますので,要約からは省きました。

3 銀行規制の趣旨

LL社は,昨年8月の「Ginko Financial」破綻以降,「銀行」による不履行に関する苦情を数件受理してきたことを踏まえ,高利率をうたい文句にして,預金者を食い物にする詐欺的な銀行を放置したら,バーチャル経済の不安定化につながることから,今回の規制に踏み切ったと説明しています。

全面禁止でなくて,何らかの監督権限を及ぼしたらどうかということについてはKnowledge BaseにFAQがあるのですが,それをみると次のようにあります。

Why not “virtually regulate” these “banks,” instead of banning them?

Linden Lab can’t and won’t become a virtual “banking regulator.” Banking regulation ? whether in the “real” or “virtual” world ? is complex and intensive, and is a government activity. Linden Lab is not empowered to regulate the businesses of banking or securities. We can and will take steps, however, to ensure the stability of the Second Life economy, and that is what we are doing.

平たく言うと,「銀行を監督するなんて,そんな政府がやるような複雑で専門的なことやってられませんって」ということでしょうか。TOS上は,LL社が,そういう権限を持つことも可能な気がしますが,もちろんインワールドに限ってですけど・・・

GINKO破綻のときに,わたしのブログ記事で,セカンドライフ内銀行への監督の必要性を強調しましたが,こんなに遅く,しかも,こういう形で(全面禁止)規制がされるとは,ちょっと驚きです。

それにしても,昔のフィリップの発言

Philip Linden: I would note that there is a lot of transparency around projects like Ginko.「GINKOのようなプロジェクトの周りには,多くの透明性がある」

この言葉が耳について離れません。まあ,わたしもよく物を忘れますが。

4 規制実施の影響とLL社の対策

LL社は,セカンドライフ内「銀行」のバーチャルATMなどのオブジェクトを2008年1月22日以降全て削除することになるとして,その施行日までの間に,「銀行」の運営者に預金の払戻しに応じるよう勧告しています。もし,施行日以降も銀行業務が行われている場合は,アカウントの停止,剥奪,土地の没収などの制裁措置が取られると警告しています。

しかし,ロイターの記事にあるとおり,リアルの銀行が預金者全員に一度に預金を返済するような資金を準備しているわけではないように,ましてやセカンドライフ内銀行は,おそらく十分な返済資金を持っていない銀行が多いと思われます。

また,本当に詐欺的な業者は,この規制を受けて,資金をいち早くセカンドライフ外に持ち出そうという動きをみせるものと思われます。

ですから,かなりの預金者が預金の払戻しを受けられないまま放置されるという事態が起こる可能性が高いと思います。

これについてのLL社の措置ですが,Knowledge Baseをみると,それら被害を受けた預金者が,「銀行」の経営者を相手として民事上の訴えを起こしたり,刑事処罰を求めたりする場合に,司法当局などに記録を提出するなどして協力するとしています(そんなの当たり前だって・・・思わずツッコミ)。しかし,それら業者の資産を凍結したり,LL社としてそれ以上の補償をすることは考えていないようです。

5 もっと根本的な問題

今度の措置による経済的な影響は,ギャンブル禁止以上のものがあると予想します。

わたしとしては,この規制がどういう法的根拠で実施されるかということが気になります(TOSの改正をするのだろうと思いますが,LL社のやることは不明朗です。)。また,個人間の取引や株式などほかの経済取引を対象にしないことなど,規制の内容をもっと明確にしてもらいたいと希望します。

ただ,前にもいいましたが,もっともっと奥にある根本的な問題を意識します。

LL社が,わたしたちの経済活動や生活に重大な影響のある決断を,ある日突然,何の相談もなくして行ったとして,わたしたちは,唯々諾々と従わなければならないのでしょうか?

それが結果として適切ならば,いいのでしょうか?

これがいやなら,セカンドライフをやめればいいのでしょうか?

たくさんの友だちができたり,たくさんのリアルマネーを投下して商売をしたりしているのに?

ここにたしかに一つの社会が形成されつつありますが,わたしたちは,その社会システムの形成に影響力を及ぼすことはできないのでしょうか?

ひとりひとりの心の中に生じた疑念が,いつか大きな力となるような予感がします。

2008年1月8日火曜日

仮想世界の法とかもろもろ(補足)

前回,前々回の記事を書いて,少しその前提を説明しておいたほうがよかったり,少し言葉足らずだったりしたところがありますので,補足させていただきます。

1 仮想世界の法について

仮想世界内の出来事であっても,実体は,生身の人間同士の社会関係でありますから,必ずどこかの国の法律が適用されることは間違いありません。じゃあ,どこの法律なんだという質問をされるかもしれませんが,これは多国籍な人が交流する仮想世界においては,そう単純な話ではありません。

いまの世界には,統一世界政府も統一世界法もありませんから,世界の各国が,各自の主権に基づいて,それぞれに立法し,それぞれに法を適用している状態であることはご承知のとおりです。国際的な私人同士の紛争をどう扱うかについても,この状況は変わりません。

まず,どこの裁判所で裁判するかという問題(国際裁判管轄の問題)があります。これについても,条約とかはないので,各国が各国の法律や考えに従って,取り扱う事件を決めています。だから,ある紛争が,A国の裁判所でも,B国の裁判所でも係属し,その判断が矛盾することもあります(国際二重起訴)。

次に,管轄裁判所が決まったとして,その裁判所が,どの国の法律を適用するか(準拠法の問題)についても,各国が各国の法律に基づいて,適用法律を決めており(必ずしも当該法廷地の法律が適用されるわけではありません。),これについても世界的に統一された条約のようなものはありません(ハーグ国際私法会議で部分的にいくつかの条約はできていますが)。

したがって,A国の人とB国の人の間で生じた紛争は,A国の裁判所で,A国又はB国又は別の国の法律により判断されるか,B国の裁判所でA国又はB国又は別の国の法律により判断されるか,いろいろあり得ます。これを各国がバラバラに(ある程度の共通項はありますが)決めているのです。

こんなことでは,安心して企業活動ができませんよね。そのため,LL社でもそうですが,グーグルなど世界的なサービス活動をしている企業が顧客と締結する約款(規約)には,必ずといっていいほど,管轄裁判所,適用法についての合意条項が入っています。これは重要な意味があるのです。

だから,セカンドライフで外国人相手に,SIMのレンタルや仮想土地の売買など大きな商売をするのであれば,covenant(規約)などに,少なくとも管轄裁判所の合意(自分の近くの裁判所が合理的です。),準拠法(日本人なら日本法にすることが多いはずです。カリフォルニア法?自信があるならどうぞ。)の定めを置くことをお勧めします。そのほか,どんな当たり前のことでも,争いが生じそうなことはなるべく契約条項に入れておいた方がよいです。

日本人限定の商売なら,そこまで気を遣わなくてよいかもしれませんが,日本語を使用していたからって,その人が日本国籍とは言い切れませんので,安心はできません。


2 セカンドライフ内の仮想土地の所有権について

セカンドライフ内の仮想土地の所有権という言葉を注釈なしに使いましたが,仮想土地の所有権といっても,これはLL社に対して,仮想空間の一定の部分をある程度の自由度で利用できる権利であって,要するにサーバーの利用権にすぎません。LL社から直接に利用権を設定された人を所有権者といってよいかもしれません。

これに対し,仮想土地の賃借権等の使用権ですが,これは,そのようにLL社から利用権を受けた人からの,利用権の又貸しに過ぎません。もともとの利用権(仮想所有権)が親亀なら,その上に乗っている子亀のような関係にあり,もとの仮想所有権者が権利を失ったら,使用権も消滅する関係にあります(親亀がこけたら子亀もこける)。

そうすると,プライベートSIMの土地の売買は,SIM全体の譲渡を受けない限り,SIMオーナーの仮想所有権の上に乗っかっただけのものにすぎませんので,これを所有権と表現するのはおかしいと思います。せいぜい無期限使用権というほうが間違いないと思います。

3 プライベートSIMの二重売買の危険について

メインランドの土地は,代金支払と同時に所有権が移転されるシステムをとっており,これが紛争予防に役立つことは前に述べました。しかし,プライベートSIMの売買(SIM自体の売買を指します。)には,このシステムは取られておらず,LL社は,前所有者と新所有者の共同申請によってSIM移転の手続を行うが,当事者間の代金の授受には一切関与しないシステムになっています。

そのため,代金を支払ったのに,SIMが譲渡されないとか,逆に,SIMを譲渡したのに,代金を支払ってくれないとかが生じ得ますし,それをシステム上回避できないのです。もちろん二重譲渡の危険もあり,そういう事件も起こったようです。

これを回避しようと思ったら,エスクローサービスなどを利用するしかありません。

これについても,こうした危険を避けるシステムを作ることは,多少手間ですが,可能だと思います。それをしていないのは,LL社がプライベートSIMの譲渡流通がそう多いとは考えていなかったからかもしれません。これも文句があれば,ガンガン言えばいいと思います。

2008年1月6日日曜日

仮想世界のシステムと規制

前に,仮想世界は,一旦紛争が生じると,リアルの法に従った処理が困難であるため(決して法適用がないわけではないですよ。),紛争予防が重要であるという記事を書きました。

しかし,仮想世界には,リアルと異なった良い点もあります(良いといえないかもしれませんが・・・)。それは,システムによる規制が容易であることです。ローレンス・レッシグは,「CODE」の中で,ネット社会におけるアーキテクチャ(コード)の規制に着目することの重要性を指摘しましたが,ネットの中に生まれた仮想世界は,まさにシステム(アーキテクチャ)による規制が大きな力を持っています。

リアルだと,どんなに警察が頑張っても,窃盗を無くすることはできませんが,セカンドライフにおいては,人の物を奪うことはできません(コピーは別ですよ。)。これは,そういう風にシステムが設計されているからです。ですから,リアルと異なり,窃盗を処罰する必要がありません。これは当たり前のように思うかもしれませんが,人の物を奪うことが可能なように設計されているゲームもあります(ウルティマオンラインなど,これはこれで面白いですがw)。

リアルだと,いきなり変な人にからまれて,暴力を受けるという危険がありますが,セカンドライフでは,ダメージ許可エリアでしか,アバターにダメージを与えることができません。したがって,そういうエリアに入らなければ(ほとんどの地域がダメージ不許可ですよね?),不当に攻撃されるおそれはありません。ですから,アバターを攻撃するという行為は,もっぱら嫌がらせ的な意味しかありません。これは,もっと徹底するなら,およそアバターにダメージを与えることができないという設計にしてしまうことも考えられ,実際にそういう仮想世界も存在します。しかし,そういうことをすると,戦争ごっこや斬り合いなどができなくてつまらないですよね。だから,ダメージ許可もできるようにしたのだと思います。この当たり,セカンドライフは基本的にゲームなんだなあと思うところです(もちろん,そこが好きなんですよ。)。

リアルだと,土地を人に賃貸して,賃借人が賃料を滞納して,任意に退去してもらえない場合には,どうしても裁判手続が必要ですが,セカンドライフのプライベートSIMのレンタルだとどうですか?滞納した賃借人がいたら,ポチッとクリックすれば,一気に土地から追い出すことが可能です。単に賃借人が気にくわないという理由だって,追い出すこと自体は,システム的には容易です(それが正しいかどうかは別として)。これは,SIMオーナーに,絶対的な権利を付与するように設計してあるからです。いわば王国の王というわけですね。実際に,ロールプレイでそのように振る舞うこともできます(国民が逃げ出さなければw)。

リアルだと,例えば日本では,賃借人の権利は,借地借家法などで守られています。建物の賃貸借,建物所有を目的とする土地の賃貸借など,一定の要件を備えれば,仮に,賃貸人が不動産の所有権を譲渡しても,新所有者に賃借権を主張できます。これと同じことを,システム的に採用することも可能です。例えば,プライベートSIMのオーナーが交代した場合において,前の所有者が承認した賃借期間については,新オーナーは,賃借人を退去させることができないという風にシステム設計することも可能です。しかし,現状は,システム的には,そうはなっていません。そもそも観念上,賃貸借という合意ができても,システム的には土地の賃貸借という設定ができません。そのため,実際は賃貸借なのに,仮想土地の所有権を譲渡し,退去時に仮想土地の所有権を返却するということが行われています。

プライベートSIMの土地の一部の譲渡というのは,システム的にはレンタルと全く変わりません。所有とかいっても,いざとなったら,SIMオーナーによってどうとでもなるのです(ちょっと言い過ぎかも)。

これらのシステムを決めているのは,何でしょうか?一つには技術的な問題があります。あまり複雑なシステムは,コスト的にも大変ですし,ユーザーも使いこなせないでしょう。もう一つは,価値判断があります。賃借人の保護はその程度でよい(少なくともシステム的には),といった価値判断です。

では,誰がそういった価値判断をしているのでしょう。リアルでは,多くの民主国家では,わたしたち自身が,その代表を通じて法や社会制度を決めています(代表民主制の機能に疑問があるとしても,少なくとも建前的にはそうです。)。仮想世界では,誰が決めているのでしょう?もちろん,仮想世界を運営する会社です。ユーザーはシステムが嫌なら利用しなければよいというのです。その意味で運営会社も市場によるコントロールを受けるということがいえます。だって,お客が不満持って,よそにいったら,大変でしょう。ある程度は,運営会社もユーザーの意見を聞く(少なくとも聞くふりをする)必要が出てくるわけです。民主制は無理でも(だってそんなこと運営会社がするわけないでしょう。),啓蒙君主にはならないといけないわけです。そういう意味からすると,ユーザーが文句をいうことは大事だと思います。例えば,セカンドライフの歴史で,プリム税が廃止されたのには,ユーザーの反対運動が大きかったようです(セカンドライフ公式ガイドでは,このことを「革命」のように書いていますが,社会システムがプリム税以前と変わっていないことはご承知のとおり。LL社がプリム税を廃止したのは,そのほうがユーザーを獲得できるというビジネス判断だと思います。)。

紛争予防ということでシステムを捉えましたが,運営会社側が,紛争解決システムを提供することも可能です。例えば,個人オークションサイトのイーベイでは,紛争処理にスクエア・トレードによるADRのサービスを利用できるようにしています。セカンドライフだって,LL社自身がADR組織と提携して,そういうサービスを提供することは可能です。そのようにしていないのは,LL社が,その必要がないと判断しているからにほかならないわけで,その判断にユーザーが影響を与えることも可能です。

2008年1月5日土曜日

詐欺業者との取引で得たリンデンドルの没収の問題点

前回,LL社がリンデンドル換金業者との取引への警告をしたことを取り上げました。LL社は,詐欺業者との取引で得たリンデンドルを返納してもらうと警告していましたが,その根拠について疑問になったので,調べてみました。

1 規約上の根拠

まずは,利用規約(TOS)上の根拠について調べてみました。

TOS,1-5の最後の方に次のような文章があります。
"Linden Lab may halt, suspend, discontinue, or reverse any Currency Exchange transaction (whether proposed, pending or past) in cases of actual or suspected fraud, violations of other laws or regulations, or deliberate disruptions to or interference with the Service."
「Linden Labは、詐欺の事実または嫌疑、他の関係法令の違反、故意によるサービスの妨害または干渉がある場合に、あらゆる通貨両替取引を (申し入れ後、成立前、成立後に関わらず) 停止または中断、中止、破棄することができます。」

(翻訳は,インワールドヘルプから引用しました。翻訳されているのは,古い規約ですが,該当箇所は変更されていないようなので,そのまま使用させていだたいております。早く現行規約を翻訳してよ!ヒトリゴト)

しかし,上記の規約からは,詐欺などの違法取引を無効として(要するに無かったことにして)として,リンデンドルを(元の売り主に)返納させることができるというだけで,詐欺業者から得たリンデンドルをLL社に没収することまで読み込むことは無理なように思います。

2 没収の根拠

没収の根拠は,意外なところに書かれてありました。LL社は2007年の9月にSecondLifeGrid.netというのを立ち上げましたが,そのサイトのProgramsというページのAPIというところに,「Exchange Risk API」の説明が載っています。そこに没収のことが書いてありました。

ここに書いてあることを要約すると,次のようになると思います。もし,間違っていたら,ご指摘下さい。


① リンデンドルの売り手が詐欺又はTOS違反の行為によってリンデンドルを得ていたと,LL社が判断した場合

② その売り手から,LindeX以外の方法によって,リンデンドルを購入した買い手を

③ 詐欺又は規約違反行為の共犯者とみなす。

④ その買い手の持っているアカウント(altを含む。)から,取得したリンデンドルの150%を減じることができる。(平たくいえば,元金を没収される上に,50%の罰金を取られる理屈です。)

⑤ 継続的に購入していた場合は,その買い手のアカウントの停止又は剥奪があり得る。

⑥ LL社は,安全に換金したい業者には,LL社の提供するExchange Risk APIの利用を勧めており,このAPIが安全だと認めた取引については,上記のpolicyが適用されない。

3 問題点

これについて,いくつか気になることがありました。ていうか,突っ込みどころ満載?

① ユーザーがLL社の措置に従うべき法律上の根拠

このpolicyは,先に述べたTOS以上のことが書かれているように思います。
(だって,150%没収なんてTOSのどこに書いてるの?)

TOSは,この記載を引用していないようです。私たちは,規約と,規約が引用しているコミュニティスタンダードに同意することを条件として,セカンドライフが利用できるようになっていますが,上記のpolicyには同意した覚えがありません。(そうですよね?まさか,どっかに書いてあった?それにこんなわかりにくいところに書いてあるなんて,知らない人のほうが多いんじゃない?)

規約は,それが利用契約の一部となっているから,拘束されるわけです。「契約は守らなければならない」というローマ法以来の原則によって。

じゃあ,このpolicyにどうして従わなければならないんでしょう?契約法的正当性を認めるのは困難と思われます。

② それ自体に合理性があるかどうか

詐欺業者から購入した場合,故意過失を問わず,共犯者とみなすことは乱暴ではないでしょうか。しかも,事前の告知も,事後の弁解も保障されているようには思えません。

おそらく,これを合理的に解釈すると,一旦は,外形的事実から,共犯者とみなして処置するが,後にユーザー側が故意過失がなかったと立証した場合は,返金されるということかもしれません。そうではないと,適法性を認めるのは困難と思われます。しかし,そんなこと立証するのは難しいでしょうね。しかも,どういう手続で?

LindeXを通じて購入した場合は,仮に,売り手のリンデンドルが犯罪的な手段で取得されていても,免責されるのはどういうわけでしょう。まあ,共犯者の推定を及ぼすことができないからだと思います。Exchange Risk APIが安全だと認めた取引についても,同様に推定が及ばないからでしょう。

それに,詐欺業者だって,全てのリンデンドルを違法に取得したものとは限りません。全部没収したうえに50%罰金を科するのは適当でしょうか。おそらく違法なリンデンドルと合法的なリンデンドルを区別するのが面倒だからでしょうが,それってLL社の都合じゃない?

4 根本的な問題,そして最も重要な問題

わたしは,詐欺業者を擁護しているわけではないですよ。でも,取引相手が詐欺業者だなんて,本当に分かる?知らないで,取引する危険は誰でもあるのです。だからといって,150%も没収されるってどうよ。そんなこと入会するときに聞いてないって。反論しようとしても,どうやって?ADR使えって,マジですか?

そこで,根本的な問題に行き当たります。これが最も重要かもしれませんし,ひょっとしたら,セカンドライフだけの問題じゃないかも?

LL社が仮に不合理又は違法な振る舞いをしたとしても,わたしたちは,これに対抗することが困難であるということ(法律的に保障されていても,実行が困難ということ),上記はその1例にすぎないということです。

これについては,これだけの問題に留まらないので,いつか項を改めて論じたいと思います。


追記

ロイターの記事によれば,Lewis PR(LL社の公式PR会社?)のPeter Grayの発言として,150%ペナルティのpolicyは,主として換金業者を対象にしたもので,すべての買い手に包括的に適用されるものではなく,ケースバイケースで判断されるとしています。

公式ブログの記事を素直に読むと,一般のユーザーから当然に没収されるような書きぶりになっていたのにどういうことでしょう。まあ,ロイターの記事は,LL社の発言ではありませんし,もし,限定適用するなら,権限のある人が公式ブログで説明して,TOSもきちんと整理すべきでしょう。

LL社には,法律顧問(当然しっかりとした人がいますよねえ?)と相談して,早急にTOSを整備することをお勧めしたいと思います。

2008年1月3日木曜日

リンデンドル換金業者との取引への警告

LL社は,新年早々,公式ブログにおいて,リンデンドル換金業者との取引について,注意を呼びかける記事を投稿しました。

公式ブログの記事

これについては,翻訳が掲載されているので(翻訳プロジェクトの方々,本当にご苦労様です。),参考にしてください。

(なお,上記の記事に,LL社は,ユーザーから詐欺業者との取引で得たリンデンドルを当然に没収できるような記載がありますが,没収できる場合を限定して理解する必要があるように思います。)

前々回のブログで,紛争予防のことを強調しておきましたが,紛争予防は,仮想世界内だけで完結することではありません。仮想世界内の通貨を,仮想世界外で取引するときもリスク管理は必要です。

正直,わたしもセカンドライフやゲーム関連のことではありませんが,怪しげなサイトに引っかかってしまった経験があります。その自戒をこめて,その経験から,強調しておきたいことは次のようなことです。

1 多少高くても,信頼できる業者と取引をすること,逆に言えば,安すぎるのは何かあると考えること

2 友人や知人が利用したことがあるからといって,信用してはいけない。

上記のうち,2は特に強調したいと思います。詐欺業者は,最初は安値の取引をうたって,いわばエサをまくのではないかと思います。ある程度口コミの評判が広がってから,本性を現すと思われます。だから,友人が取り引きしたことがあるからといって,必ずしも信用してはいけないわけです。どうも,私たちは,「友人がやっている」,「友人から紹介を受けた」などといったものに,警戒が甘くなるように思います。

最後に付け加えたいのは,前にも言いましたが,リアルの通貨を仮想通貨にすること自体リスクがあることです。仮想世界内で自分が使う以上の金は,リアルで保管しておくのが安全です。