2008年4月27日日曜日

トレードマークの使用に関する新しいTOS(1)

1 はじめに

3月24日ころ,リンデンラボ社から,トレードマークの使用に関する新しいTOSの告知がされ,これに同意しないとセカンドライフにインできないようになっていました。かなり,遅くなってしまったのですが,少し時間ができたので,その背景について調べてみました。多分,長くなると思うので,いくつかの記事に分けます。

公式ブログの記事

翻訳サイトの記事

2 概要

変更された部分は,TOSの4.4 "Without a written license agreement, Linden Lab does not authorize you to make any use of its trademarks."で,これによれば,リンデンラボの商標について,リンデンラボ社が新しく定めたガイドラインを遵守するように求めています。

ガイドラインについては,上記のリンクから見ていただきたいのですが,要約すると,Second Lifeなどの文字を,自己の営業名,組織名,製品名,サービス名などの一部に使用することを禁じ,セカンドライフ関連の活動を表示するものとしては,SLという文字を所定のガイドラインに基づいて使用することを求めるものとなっています。このガイドラインを理解するために,その背景となる商標のことについて調べてみました。

3 商標とは?

商標とは,そもそも事業者が自己の取り扱う商品について,他人の商品と識別するために,文字,図形,記号等によって標識のようなものをつけたものをいいます。その後,商品だけでなく,役務について使用する標識(サービスマーク)もこれと同様に保護されるようになったものです。他人が,自己の商標を真似た商標を商品に付けることによって,顧客に間違って購入させて,売上げが減少したり,粗悪な模倣品によって信用が害されたりすることを防止するため,商標を登録し,これと同一又は類似の商標を使用することを禁止して,これを保護したのが,現在の登録商標の制度らしいです。

なお,わたしは商標法の専門ではないので,細部は違っているかもしれません。

4 リンデンラボ社の商標

リンデンラボ社のトレードマーク又はサービスマーク(以下,区別しないで,トレードマークといいます。)のうち,ユーザーが使用する可能性の高いものは,Second Life®,SL™といったものだろうと思いますが,ほかにも様々なものがあり,次のリンクからみることができます。

ここで,文字又は記号の後の®,™の意味ですが,このリンクを参照してください。

要するに,®は,連邦商標法(ランハム法 Lanham Act)によって登録されたもので,連邦商標法による保護を受けるものです。™はそれ以外のもので,連邦登録申請中のものもありますが,それだけではなく,州法で登録されたもの,登録予定のないものなど様々です。要は,連邦登録はされていないが,商標としての権利主張をしているよという意味で表示されるもののようです。

5 米国内の効力

まず,連邦登録された商標は,当然のことながら,連邦商標法による保護を受け,これを侵害する行為について差止めや損害賠償の請求ができることになります。米国では,日本の商標権よりも,侵害行為の範囲についてやや広い解釈が取られているようです。米国の判例では,相当多数の顧客又は消費者に商品又はサービスの出所,提携関係又は後援関係について混同を生じさせる蓋然性があるかどうかで侵害になるかどうかを決めているようです。商品やサービスが競合関係になくとも,何らかの提携関係や後援関係を示唆する場合も侵害行為になるとされているようです(「米国商標法・その理論と実務」39頁,創英知的財産研究所著・経済産業調査会刊)。上記のような誤認混同行為のほか,商標の識別力を弱まらせる行為(希釈化)も禁止されているようです。これは,有名な商標(著名商標)について、同種の商品でなくても,他人がいろいろな商品やサービスに使用することにより、その著名商標の機能が弱められてしまうことをいいます。例えば,製菓会社がセカンドライフ・チョコを売るようなものでしょうか。

ところで,こうした法制度を理解する前提として,米国は,連邦国家であり,判例法(コモンロー)を基礎に法律を発達させた国であるので,日本の制度と比べるとそこが違うことに注意しなければなりません。連邦法で登録されていないものであっても(すなわち,トレードマーク表記のもの),州の商標登録制度によって州法によって保護を受けることもあり,また,全く未登録のものでも,コモンローによって保護されることがあります。そもそも,連邦法は,コモンローによる商標の保護を取り込んで制定されたものだそうです。

6 日本での効力

上記の話は,米国内のことで,米国で登録された商標が直ちに日本国内で効力を生じるわけではありません。商標に関しては,属地主義が採用されており,日本国内での商標使用行為が商標権侵害に当たるかどうかは,日本の商標法によって判断され,米国内の使用行為については米国の商標法で判断されることになります。ところで,リンデンラボ社は,日本でも商標登録申請を行っていますが,現時点ではまだ登録されていないようです。

リンデンラボが日本国内で申請している商標は,「SECONDLIFE」だけのようで,下記のほか国際出願もされています。
【出願番号】 商願2007-74489
【出願日】 平成19年(2007)7月2日
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
9 オンライン3Dバーチャル環境へのマルチユーザーアクセスの提供に使用されるソフトウェア,コンピュータ3Dバーチャル環境ソフトウェア
38 オンラインバーチャル環境において使用されるテキストメッセージング及び電子メールサービス等の通信サービス
41 オンライン3Dバーチャル環境の提供,通信ネットワークによってアクセス可能なオンライン3Dバーチャル環境の提供,マルチメディア及び3Dバーチャル環境ソフトウェアの製造サービス

もっとも,未登録の商標でも,全く何の法律上の効果がないわけではなく,広く認識された商標や著名な商標については,不正競争防止法によって,同一又は類似の商標を使用することによって商品又は営業を混同させる行為は禁止されています。

★長くなってしまいましたので,以下は改めて記事にするつもりです。インターネットでの使用がどの国で使用したことになるのか,利用規約に合意したことによる契約法上の効力などについて記事にしたいと思います(時間があれば・・・)