2008年4月27日日曜日

トレードマークの使用に関する新しいTOS(2)

7 インターネット上での商標の使用と使用の場所

前回,商標権の保護に関する属地主義のことを説明しました。これは,当該商標の使用行為がされた場所の法律を適用するという原則のことをいいます。ところで,インターネット上で商標が使用された場合,どの国で使用されたことになるのかは,従来の枠組みで捉えきれない問題です。当該商標使用者の住所地,サーバーの所在地,顧客たる需要者の所在地などが基準として考えられるところですが,商標権保護の趣旨からみて,顧客たる需要者の所在地が重要な要素になると考えられます。

この問題に関して,商標法の属地性とインターネットの世界性との関係から生じる各国における商標権の抵触問題等を解決するための国際的ガイドラインとして,2001年に開催された,工業所有権保護のためのパリ同盟総会及び世界知的所有権機関(WIPO)一般総会において,「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」(pdf)が採択されました。

これによれば,インターネット上における標識の使用が,ある国における使用と認められるかどうかは,当該国において「商業的効果(commercial effect)」があるかどうかによって判断されるとされています。わかりやくいえば,当該国に所在する顧客に対して商売をしていると認められるかどうかで使用の有無を決めるということで,その判断要素としては,同勧告の3条にいくつか例示されています。

これは勧告ということであり,条約のような強制力はなく,各国の直接の裁判規範にはならないものですが,一般的な考え方として,参考にはなると思われます。

具体的な裁判例としては,有名なものにプレイボーイ対チャックベリー事件の連邦地方裁判所判決があります。これは,被告がイタリアで「Playmen」という名のインターネット・サイトを開いて,米国のユーザーに画像を有料会員制で利用させていることは,米国における頒布となり,米国における商標「Playboy」を侵害したことになるとして,米国内の顧客からのサイトの加入申し込みを受諾してはならないという,ニューヨーク南部連邦地方裁判所の判決です。

日本語でのホームページでの使用は,日本語を使用する顧客は,主として日本国に居住しているという日本語の独自の特色があるので,基本的に日本での使用と認められるように思います。しかし,英語を使用して,世界的に物品販売やサービス提供などをしている場合は,明示的に排除する等の措置をしない限り(例えば,米国居住者には販売しないと明示し,実際にも販売防止措置を施すような場合など),実際に顧客となった人が所在する複数の国で商標を使用したと認められる可能性があります。

8 商用を目的としない個人のブログにおける使用

このサイトのように個人のブログにおける商標の使用はどうなるでしょうか。

仮に,日本国に居住する人を対象とするブログであるとすると(日本語のみで記述されたブログは,サーバーの所在地にかかわらず,基本的にそうだと思います。),日本の商標法に照らして,「使用」の有無が判断されるということになります。
商標法によれば,使用については,同法3条3項に定義があります。これとともに,商標として使用したというためには,同法2条1項で「業として」商品又は役務について使用したといえる必要があるとされています。

これについて,「個人の趣味のホームページで,商標を使用している場合には,原則として,『業として』の使用に該当しないので,商標権を侵害しない。」という見解があります(青木博通著「知的財産としてのブランドとデザイン」189頁,有斐閣)。ただ,青木氏の見解によっても,アフィリエイト広告などによって収益活動を行っている場合は,業としての使用に該当する可能性があるということになるようです。これには異論があるかもしれません。紛らわしい場合は,ブログのタイトルなど,ブログ本体に関連した表示としての使用は回避したほうが安全だと思います。

また,本文中でなにかの記事を書くときに,商標に関する記述が含まれているという程度では,上記の「使用」の概念に含まれていないと思われます。

なお,以上は日本の商標法の話であり,海外の居住者を対象に外国語サイトを開設しているような場合は,相手国の商標法では違う解釈があり得ることを認識すべきです。

★以上は,法律上の話であり,われわれが利用規約(TOS)に合意したことによって,契約上の拘束力が生じる可能性があります。それと,ガイドラインの解釈とか,「SL総合研究所」はどうなの?wとかは,次の機会に記事にしたいと思います。

トレードマークの使用に関する新しいTOS(1)

1 はじめに

3月24日ころ,リンデンラボ社から,トレードマークの使用に関する新しいTOSの告知がされ,これに同意しないとセカンドライフにインできないようになっていました。かなり,遅くなってしまったのですが,少し時間ができたので,その背景について調べてみました。多分,長くなると思うので,いくつかの記事に分けます。

公式ブログの記事

翻訳サイトの記事

2 概要

変更された部分は,TOSの4.4 "Without a written license agreement, Linden Lab does not authorize you to make any use of its trademarks."で,これによれば,リンデンラボの商標について,リンデンラボ社が新しく定めたガイドラインを遵守するように求めています。

ガイドラインについては,上記のリンクから見ていただきたいのですが,要約すると,Second Lifeなどの文字を,自己の営業名,組織名,製品名,サービス名などの一部に使用することを禁じ,セカンドライフ関連の活動を表示するものとしては,SLという文字を所定のガイドラインに基づいて使用することを求めるものとなっています。このガイドラインを理解するために,その背景となる商標のことについて調べてみました。

3 商標とは?

商標とは,そもそも事業者が自己の取り扱う商品について,他人の商品と識別するために,文字,図形,記号等によって標識のようなものをつけたものをいいます。その後,商品だけでなく,役務について使用する標識(サービスマーク)もこれと同様に保護されるようになったものです。他人が,自己の商標を真似た商標を商品に付けることによって,顧客に間違って購入させて,売上げが減少したり,粗悪な模倣品によって信用が害されたりすることを防止するため,商標を登録し,これと同一又は類似の商標を使用することを禁止して,これを保護したのが,現在の登録商標の制度らしいです。

なお,わたしは商標法の専門ではないので,細部は違っているかもしれません。

4 リンデンラボ社の商標

リンデンラボ社のトレードマーク又はサービスマーク(以下,区別しないで,トレードマークといいます。)のうち,ユーザーが使用する可能性の高いものは,Second Life®,SL™といったものだろうと思いますが,ほかにも様々なものがあり,次のリンクからみることができます。

ここで,文字又は記号の後の®,™の意味ですが,このリンクを参照してください。

要するに,®は,連邦商標法(ランハム法 Lanham Act)によって登録されたもので,連邦商標法による保護を受けるものです。™はそれ以外のもので,連邦登録申請中のものもありますが,それだけではなく,州法で登録されたもの,登録予定のないものなど様々です。要は,連邦登録はされていないが,商標としての権利主張をしているよという意味で表示されるもののようです。

5 米国内の効力

まず,連邦登録された商標は,当然のことながら,連邦商標法による保護を受け,これを侵害する行為について差止めや損害賠償の請求ができることになります。米国では,日本の商標権よりも,侵害行為の範囲についてやや広い解釈が取られているようです。米国の判例では,相当多数の顧客又は消費者に商品又はサービスの出所,提携関係又は後援関係について混同を生じさせる蓋然性があるかどうかで侵害になるかどうかを決めているようです。商品やサービスが競合関係になくとも,何らかの提携関係や後援関係を示唆する場合も侵害行為になるとされているようです(「米国商標法・その理論と実務」39頁,創英知的財産研究所著・経済産業調査会刊)。上記のような誤認混同行為のほか,商標の識別力を弱まらせる行為(希釈化)も禁止されているようです。これは,有名な商標(著名商標)について、同種の商品でなくても,他人がいろいろな商品やサービスに使用することにより、その著名商標の機能が弱められてしまうことをいいます。例えば,製菓会社がセカンドライフ・チョコを売るようなものでしょうか。

ところで,こうした法制度を理解する前提として,米国は,連邦国家であり,判例法(コモンロー)を基礎に法律を発達させた国であるので,日本の制度と比べるとそこが違うことに注意しなければなりません。連邦法で登録されていないものであっても(すなわち,トレードマーク表記のもの),州の商標登録制度によって州法によって保護を受けることもあり,また,全く未登録のものでも,コモンローによって保護されることがあります。そもそも,連邦法は,コモンローによる商標の保護を取り込んで制定されたものだそうです。

6 日本での効力

上記の話は,米国内のことで,米国で登録された商標が直ちに日本国内で効力を生じるわけではありません。商標に関しては,属地主義が採用されており,日本国内での商標使用行為が商標権侵害に当たるかどうかは,日本の商標法によって判断され,米国内の使用行為については米国の商標法で判断されることになります。ところで,リンデンラボ社は,日本でも商標登録申請を行っていますが,現時点ではまだ登録されていないようです。

リンデンラボが日本国内で申請している商標は,「SECONDLIFE」だけのようで,下記のほか国際出願もされています。
【出願番号】 商願2007-74489
【出願日】 平成19年(2007)7月2日
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
9 オンライン3Dバーチャル環境へのマルチユーザーアクセスの提供に使用されるソフトウェア,コンピュータ3Dバーチャル環境ソフトウェア
38 オンラインバーチャル環境において使用されるテキストメッセージング及び電子メールサービス等の通信サービス
41 オンライン3Dバーチャル環境の提供,通信ネットワークによってアクセス可能なオンライン3Dバーチャル環境の提供,マルチメディア及び3Dバーチャル環境ソフトウェアの製造サービス

もっとも,未登録の商標でも,全く何の法律上の効果がないわけではなく,広く認識された商標や著名な商標については,不正競争防止法によって,同一又は類似の商標を使用することによって商品又は営業を混同させる行為は禁止されています。

★長くなってしまいましたので,以下は改めて記事にするつもりです。インターネットでの使用がどの国で使用したことになるのか,利用規約に合意したことによる契約法上の効力などについて記事にしたいと思います(時間があれば・・・)

2008年4月23日水曜日

新CEOはMark Kingdon氏に決定














先日,リンデンラボ社の新しいCEOが決まりそうだというロイターのインタビュー記事のことを取り上げたばかりですが,公式ブログで早くも新しいCEOの発表がありました。

公式ブログの記事

新しいCEOはMark Kingdon氏だそうです。同氏は,Organic Inc.で2001年からCEOを務めている人物で,既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが,同社のHPに同氏の略歴が載っていますので,興味のある方は見てください。

同氏のセカンドライフ名は,M Lindenだそうで,プロフを検索してみたら,プロフのアバターは暫定的で,これから変わっていくというようなことが書いてありました。

同氏は,5月15日に就任するそうで,その後は,Philipと協力しながら,リンデンラボ社の経営を行っていくことになるようです。Philipがリタイアするわけではなく,CEOといっても,完全に1人に任されているというわけではなさそうなので,やりにくそうなポジションのように見えますが,セカンドライフに新風を吹き込んでもらいたいものです。

新CEOに対する注文としては,日本向けスタッフを充実させていってもらいたいと思います。日本語サイトも今のままでは半端です。しっかり整備してほしいですね。

2008年4月22日火曜日

リンデンラボ社の新しいCEOとか

リアルライフが超多忙なこともあって,ブログ放置してました。
書かずに放っておいたら,そのまま休眠ブログになりそう。習慣ってコワイ。

さて,この間,重要なことがいくつかありました。

まず,わたしが関心をもったのは,リンデンラボ社から発表された,トレードマーク使用に関するガイドラインです。
これは従来,リンデンラボ社があまりうるさいことを言わなかったSecond Life®という商標や,手の中に目があるというお馴染みのlogo使用などについて,ユーザーの使用についてのガイドラインを作ったものです。
これについて理解する前提として,米国での商標についての法規整について調べようと思いつつ,図書館にいく暇がないので,結局放置することになってしまいました。うちのブログの名前は問題ないかな?まあいいや。そういうことにしてw
そのうち,調べる時間があったら,なんか書きます。でも,忘れるかも・・・

あとは,セカンドライフやってて,目立った変化として,ウインドライト対応ビューアが正式ビューアとなったことと,SIM全域の物理エンジンがHavok4に切り替わったことが大きいと思います。
多少ビューアが重くなっても,自宅は海辺にあるので,やっぱり海キラキラは気持ちいいです。だからどうっていうわけじゃないけど,居心地がいい方がいいですよね,やっぱり。
仕事が忙しいのもあって,PC仕事に疲れたら,仮想世界の自宅からぼうっと海を眺めてます。リアルの自宅からは隣の家しかみえないし(>_<)

そうはいっても,相変わらず不具合が出まくりなのは,仕様みたいです。

そういえば,前のブログでPhilip Rosedale氏がリンデンラボ社のCEOを辞める意向であると書きましたが,ロイターの記者がPhilip Rosedale氏にしたインタビューによれば,数週間内にリンデンラボ社の新しいCEOが決まるかもしれないということです。

どんな人がCEOになるのか知らないけれど,最近は(特に日本人の間で)頭打ち感が漂っているセカンドライフですので,なにかちょっと新鮮なものがほしいですね。新しいCEOには,Philipに遠慮しないでガンガンやってほしいです。