仮想世界と恋愛
1 はじめに
オンラインゲーム歴が長くなると,オンラインゲームの中で知り合って恋愛しているとか,果ては結婚したとか,また,逆に失恋したとかいうことをよく聞きます。オンラインゲームで恋愛が成立することは所与のものとしていいと思いますので,さらに進んで,オンラインゲーム内の恋愛にどういう形があるのかについて,遊び半分で議論してみたいと思います。
ここでいう仮想世界は,セカンドライフのようなものだけでなく,オンライン上でキャラクターを操作して遊ぶ多人数ゲーム(MMORPG)も含めて考えます。
なお,「仮想世界の恋愛」と,「仮想恋愛」とは区別する必要があります。
仮想恋愛は,それが現実の対象(アイドルやクラスメイトなど)であろうと,架空の対象(ゲームキャラなど)であろうと,その対象との恋愛を空想して,頭の中で恋愛の気分を味わうことを言います。仮想世界の恋愛は,仮想世界のキャラを通じて,あくまでも現実の恋愛をすることを言います。
2 分類
リアル恋愛との関係に着目して,試しに次のように分類してみました。
1) リアルリンク型
a) リアル先行型
b) リアル追随型
2) リアル分離型
a) 非ロールプレイ型
b) ロールプレイ型
3 リアルリンク型-リアル先行型
これは例えば,恋人や配偶者を同じゲームに引き入れるような形です。もともと,リアルで知り合っているのですが,その通信手段又は共通の趣味として,仮想世界を利用するような場合です。
リアル多忙でスケジュールが合わせられない場合,遠距離恋愛の場合などは,仮想世界でのコミュニケーションが有効でしょう。3Dのキャラ同士で空間を共有するのは,電話やメールよりも気持ちが通い合うかもしれせん。特にセカンドライフは,恋人同士がするようなアニメーションをアバタ同士にさせることができるので,そういうのが好きな人にはよいかもしれません。
4 リアルリンク型-リアル追随型
仮想世界で知り合って,まず,仮想世界内で恋愛を始め,それがリアルの恋愛に発展する類型です。仮想世界ではただの知り合いで,オフ会で会ってそこで恋愛を始めたようなものは,むしろリアル先行型かもしれません。
仮想世界で恋愛を始めることはなかなか困難な問題があります。相手を判断する情報が,主として相手の打った文字の情報(時には音声)しかないからです。恋愛においては,自分を良く見せたいという心理が働くことがあり,積極的に嘘をつかないまでも,相手の誤解に乗じたり,都合の悪いことを言わないということはあり得ます。リアルでもそうですから,仮想世界では,これに一層バイアスがかかる可能性があります。
また,人は見えない部分を想像力で補います。仮想恋愛とよく似ていますが,相手のリアルについて自分の願望を投影して,実際以上に美化してしまう可能性もあります。
仮想世界で気のあった相手とリアルでも会ってみたいと思うのは自然な心情かもしれません。その場合,仮想と現実のギャップをどう埋めていくかが問題になってきます。
少々古い話ですが,ユーガットメールという映画がありました。インターネットで知り合った男女が,実際は商売敵同士であったという話です。映画のほうは,なぜかハッピーエンドになるのですが,現実にはそうはいかないでしょう。
極端なケースでは,善良な人だと思ったら,犯罪者だったということもあり得ます。
そういうリスクもあるわけですが,現実世界で知り合うチャンスのない人と知り合うことができるというメリットもあります。
何も恋愛しようと思ってゲームをしている人は少ないと思います。いつもいっしょに遊んでいるうちに気がついたらそうなっていた,というのが多いような気がします。その場合,次のステージに進もうと思ったら,上のような問題を意識して,自分の気持ちをよく整理しておく必要があると思います。リアルで会う場合は,そこで新しく始めるような感じのほうが,よいのかもしれません。
5 リアル分離型-非ロールプレイ型
これは仮想世界内の恋愛を,リアルとは切り離して行う類型で,(意識的には)ロールプレイをしていない場合です。
ロールプレイはしていなくても,「恋愛ゲーム」に近いようなものかもしれません。お互いに割り切ってやるのなら,第三者がとやかく言うことではないのかもしれません。前にいった仮想恋愛じゃないけれども,リアルから遊離して,相手の姿を空想しながら醒めない夢を見るのも悪くないかもしれません。
リアルに進もうと思っても,いろいろな障害がある場合,リアルでは遠距離,極端には外国に住んでいるとか,リアルでは別にパートナーがいるような場合など,リアルに進もうと思ってもできず,こうした形態を取ることがあり得ます。
この類型とリアル追随型との境界はあいまいです。ここからリアルに進んでいく場合もあり得ます。
6 リアル分離型-ロールプレイ型
これは仮想世界内の恋愛を,リアルとは切り離して行う類型のうち,意識的にロールプレイをして行う場合です。
典型的には,性別を偽って同性とつき合うような場合(ネカマプレイ,ネナベプレイ)があります。
セカンドライフ内のエスコートさんも男性が多いといううわさがあります。
そのようなものでなく,性別の違うキャラで遊んでいて,異性を好きになってしまったが,相手は同性と思っているという場合もあります。こうした場合,誤解した状況を放置していると最後は悲劇になるようです。
ロールプレイ型になると思いますが,セカンドライフ内で性倒錯的なプレイを行う人たちがいます。リアルで同じことをやっていたら,むしろ非ロールプレイ型ですが,リアルでは一応ノーマルなのに,仮想世界では違う場合をいいます。まあ,心の奥にそういう欲望が潜んでいるのかもしれませんが。ただ,最近,セカンドライフでこうした表現について厳しい規制がされるようになっているのは前に取り上げたとおりです。
7 最後に
現代社会では,仮想世界が実体化していく一方で,現実世界が希薄化していくような感覚があります。仏教では,もともと現実の肉体を仮の入れ物と見る感覚もあります。リアルの恋愛自体も現世というはかない夢のような世界の出来事なのかもしれません。
「夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな」
紀貫之・古今和歌集
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