仮想世界内のADRの可能性
前に,1万ドル未満の少額損害賠償請求に関してオンラインADR(裁判外紛争解決)の利用ができるような規約改正がされたことをブログ記事にしました。
ロイターの記事によれば,LL社の関係者の発言として,もしADR機関がセカンドライフ内で仲裁手続を行うことができるのであれば,それも認められるということです。はっきりとしたことは分かりませんが,これによれば,以前に紹介したe-Justice Centreも,この規約に基づくADRとして利用できるかもしれません。
ユーザーがアカウント停止又は剥奪されてしまったケースなどを別として,セカンドライフの利用に関して起こった紛争であれば,セカンドライフ内で紛争解決手続が行われるのがふさわしいと思われます(前記事参照)。
もっとも,規約の対象とする紛争では,LL社自身が紛争当事者なので,紛争の一方当事者の事業を活用して紛争解決手続を行うこと自体に抵抗があるかもしれません。この場合には,仲裁機関内部の会話や,仲裁機関と訴えたユーザーとのやり取りなどの通信の秘密を確保することが重要になってきます。
この規約の問題とは離れて,仮想世界内でのADRの有用性を考えることは重要かもしれません。今でも,オンラインを利用したADRサービスがありますが,主としてその通信手段はメールのようです。そのため,当事者が出頭して行う普通のADRに比べて,臨場感に欠ける,即応性がないなどの問題が指摘されています。また,実際やってみると分かると思いますが,メールや文書のやり取りだけでだけで紛争当事者を説得し,妥当な解決に導いていくのはかなり困難な作業だと思います。しかし,仮想世界でアバター同士が会話をする方法によってADRを行えば,実際に直接対面して話しているようなイメージで会話が可能ですし,臨場感のある議論が可能です。時間のかかるメールのやり取りなどに比べて,話し合いもリアルタイムで行われ,より早い速度で合意に進むことが可能と思われます。ですから,仮想世界に関連した紛争に限らず,インターネット内の取引関連の紛争などを含めた一般的な紛争についても,仮想世界を利用したADRの活用が有効なように思われます。
問題は,今のところ,一般人が仮想世界を気軽に利用するには,少し敷居が高いことです。しかし,前回仮想世界を利用するためのPCの能力の問題について述べましたが,少なくとも10年程度はムーアの法則が妥当するでしょうから,普通のPCでサクサク仮想世界が利用できるのもそう遠くないことと思います。そういえば,LL社がセカンドライフを作るのに影響を受けたという「スノウ・クラッシュ」という小説のなかでは,公共端末からも仮想世界が利用できるようになっていました(モノクロアバターですがw)。そういったことも実現可能性はあると思います。
まあ,そこまで拡大しなくても,まずは仮想世界に関連した紛争からADRサービスを始めることが考えられますね。先行者であるe-Justice Centreの活動が注目されますが,そろそろ民間の事業者も参入してきてほしいものです。
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