2007年9月19日水曜日

紛争解決に関する利用規約(TOS)の変更

1 はじめに

 LL社は,LL社とユーザーとの間の紛争解決に関して,利用規約(TOS)を改正しました。

 公式ブログの記事

 新しい利用規約

 古い利用規約

 これによれば,ユーザーがLL社に対して訴えを提起する場合に,サンフランシスコの裁判所を専属管轄裁判所と定めるとともに,1万ドル未満の少額損害賠償請求に関してオンラインADR(オンラインによる仲裁などの裁判外紛争解決)の利用ができることを定めました。

2 規約改正の背景

従来の利用規約(TOS)によれば,LL社とユーザー間の紛争は,サンフランシスコの国際商業会議所 (International Chamber of Commerce)の仲裁によって解決するとされていました。しかし,連邦裁判所で,この条項が非良心的とされて,この条項の効力を否定する判決がされたことは,前に取り上げたとおりです

 おそらくLL社は,この条項によって,ユーザーからの訴えを上記の機関に集中させ,カリフォルニア州外での訴訟追行を強いられることから生じる訴訟費用等のコストを減らすことを意図し,あわよくば訴訟自体をあきらめさせたかったと思われます。しかし,上記のように裁判所がこの条項の効力を否定したことから,皮肉にも,裁判管轄についての効力ある規約がないことになってしまいかねず,LL社は,どこの裁判所にでも訴えられる危険にさらされていたことになります。

 こうした事情から,LL社は,上記の規約改正の必要に迫られていたといえます。

 これはLL社のお家の事情ですが,それに加えて別の面からの問題点もありました。
 それは,セカンドライフのユーザーは世界に広がっているために,カリフォルニアでの裁判を強いることは,訴訟を断念させるに等しいという問題です。わたしのブログでも,こうした問題を取り上げ,バーチャル裁判所の提案をしたり,又は,オンライン上で調停をするオンラインADRを紹介したりしました。 この面でも何らかの対応をする必要があったと思われます。

 うがった見方ですが,専属裁判管轄を決めるだけでは,また「非良心的」とされて無効になるおそれがあるために,「良心的」な条項を付加する必要があったのかもしれません。

3 改正の骨子

○ ユーザーがLL社を訴える場合の専属管轄裁判所(そこにしか訴えられないという意味です。)をカリフォルニア州,サンフランシスコの裁判所とする。

○ 請求額が1万米ドル未満の少額損害賠償請求については,電話,オンライン,書面など当事者が仲裁機関に出頭しなくてもよいADR(裁判外紛争解決)を利用できる。

○ この規約に反して,「誤った」場所で訴訟を提起した場合,これによってLL社が支払った弁護士費用や損害について1000米ドルまで賠償を求められることがある。

4 専属管轄について

 この種の規約は,オンラインサービスであれば,よく見かけるものです。例えば,グーグルの利用規約によれば,カリフォルニア州、サンタクララ郡内に所在する裁判所の専属管轄権に服するとされています。

 しかし,規約に反して別の裁判所に訴えた場合に訴訟費用の支払を義務づける条項はあまり聞いたことがありません。

 1万米ドル以上の損害賠償請求,金銭賠償ではなく特定の行為の履行を求めるもの(エクイティ上の救済)については,上記のADRによる解決の対象外とされていますので,サンフランシスコに訴えるしかないわけですが,この条項についても,従来の条項と同様に「非良心的」とされて無効になる可能性は残るものと思われます。

5 少額損害賠償請求についてのADRについて

 利用するADRはLL社とユーザーが合意で決めるものとされますが,利用可能なADRの要件も規約で定められています。公式ブログによれば,既存のADRのうちAmerican Arbitration Association (AAA) (http://www.adr.org/), Judicial Arbitration and Mediation Services/Endispute (JAMS)(http://www.jamsadr.com/),National Arbitration Forum (NAF) (http://www.arb-forum.com/)が利用可能であるとして例示されています。

 請求金額等の限定はあるにしても,これによって日本など外国のユーザーにも,LL社との紛争解決の道が拡大したことは好ましいことだと思います。

 (請求金額が1万ドル以上の場合でも,1万ドル未満の請求に小分けすれば?・・・あ,聞かなかったことにしてw)