2008年1月5日土曜日

詐欺業者との取引で得たリンデンドルの没収の問題点

前回,LL社がリンデンドル換金業者との取引への警告をしたことを取り上げました。LL社は,詐欺業者との取引で得たリンデンドルを返納してもらうと警告していましたが,その根拠について疑問になったので,調べてみました。

1 規約上の根拠

まずは,利用規約(TOS)上の根拠について調べてみました。

TOS,1-5の最後の方に次のような文章があります。
"Linden Lab may halt, suspend, discontinue, or reverse any Currency Exchange transaction (whether proposed, pending or past) in cases of actual or suspected fraud, violations of other laws or regulations, or deliberate disruptions to or interference with the Service."
「Linden Labは、詐欺の事実または嫌疑、他の関係法令の違反、故意によるサービスの妨害または干渉がある場合に、あらゆる通貨両替取引を (申し入れ後、成立前、成立後に関わらず) 停止または中断、中止、破棄することができます。」

(翻訳は,インワールドヘルプから引用しました。翻訳されているのは,古い規約ですが,該当箇所は変更されていないようなので,そのまま使用させていだたいております。早く現行規約を翻訳してよ!ヒトリゴト)

しかし,上記の規約からは,詐欺などの違法取引を無効として(要するに無かったことにして)として,リンデンドルを(元の売り主に)返納させることができるというだけで,詐欺業者から得たリンデンドルをLL社に没収することまで読み込むことは無理なように思います。

2 没収の根拠

没収の根拠は,意外なところに書かれてありました。LL社は2007年の9月にSecondLifeGrid.netというのを立ち上げましたが,そのサイトのProgramsというページのAPIというところに,「Exchange Risk API」の説明が載っています。そこに没収のことが書いてありました。

ここに書いてあることを要約すると,次のようになると思います。もし,間違っていたら,ご指摘下さい。


① リンデンドルの売り手が詐欺又はTOS違反の行為によってリンデンドルを得ていたと,LL社が判断した場合

② その売り手から,LindeX以外の方法によって,リンデンドルを購入した買い手を

③ 詐欺又は規約違反行為の共犯者とみなす。

④ その買い手の持っているアカウント(altを含む。)から,取得したリンデンドルの150%を減じることができる。(平たくいえば,元金を没収される上に,50%の罰金を取られる理屈です。)

⑤ 継続的に購入していた場合は,その買い手のアカウントの停止又は剥奪があり得る。

⑥ LL社は,安全に換金したい業者には,LL社の提供するExchange Risk APIの利用を勧めており,このAPIが安全だと認めた取引については,上記のpolicyが適用されない。

3 問題点

これについて,いくつか気になることがありました。ていうか,突っ込みどころ満載?

① ユーザーがLL社の措置に従うべき法律上の根拠

このpolicyは,先に述べたTOS以上のことが書かれているように思います。
(だって,150%没収なんてTOSのどこに書いてるの?)

TOSは,この記載を引用していないようです。私たちは,規約と,規約が引用しているコミュニティスタンダードに同意することを条件として,セカンドライフが利用できるようになっていますが,上記のpolicyには同意した覚えがありません。(そうですよね?まさか,どっかに書いてあった?それにこんなわかりにくいところに書いてあるなんて,知らない人のほうが多いんじゃない?)

規約は,それが利用契約の一部となっているから,拘束されるわけです。「契約は守らなければならない」というローマ法以来の原則によって。

じゃあ,このpolicyにどうして従わなければならないんでしょう?契約法的正当性を認めるのは困難と思われます。

② それ自体に合理性があるかどうか

詐欺業者から購入した場合,故意過失を問わず,共犯者とみなすことは乱暴ではないでしょうか。しかも,事前の告知も,事後の弁解も保障されているようには思えません。

おそらく,これを合理的に解釈すると,一旦は,外形的事実から,共犯者とみなして処置するが,後にユーザー側が故意過失がなかったと立証した場合は,返金されるということかもしれません。そうではないと,適法性を認めるのは困難と思われます。しかし,そんなこと立証するのは難しいでしょうね。しかも,どういう手続で?

LindeXを通じて購入した場合は,仮に,売り手のリンデンドルが犯罪的な手段で取得されていても,免責されるのはどういうわけでしょう。まあ,共犯者の推定を及ぼすことができないからだと思います。Exchange Risk APIが安全だと認めた取引についても,同様に推定が及ばないからでしょう。

それに,詐欺業者だって,全てのリンデンドルを違法に取得したものとは限りません。全部没収したうえに50%罰金を科するのは適当でしょうか。おそらく違法なリンデンドルと合法的なリンデンドルを区別するのが面倒だからでしょうが,それってLL社の都合じゃない?

4 根本的な問題,そして最も重要な問題

わたしは,詐欺業者を擁護しているわけではないですよ。でも,取引相手が詐欺業者だなんて,本当に分かる?知らないで,取引する危険は誰でもあるのです。だからといって,150%も没収されるってどうよ。そんなこと入会するときに聞いてないって。反論しようとしても,どうやって?ADR使えって,マジですか?

そこで,根本的な問題に行き当たります。これが最も重要かもしれませんし,ひょっとしたら,セカンドライフだけの問題じゃないかも?

LL社が仮に不合理又は違法な振る舞いをしたとしても,わたしたちは,これに対抗することが困難であるということ(法律的に保障されていても,実行が困難ということ),上記はその1例にすぎないということです。

これについては,これだけの問題に留まらないので,いつか項を改めて論じたいと思います。


追記

ロイターの記事によれば,Lewis PR(LL社の公式PR会社?)のPeter Grayの発言として,150%ペナルティのpolicyは,主として換金業者を対象にしたもので,すべての買い手に包括的に適用されるものではなく,ケースバイケースで判断されるとしています。

公式ブログの記事を素直に読むと,一般のユーザーから当然に没収されるような書きぶりになっていたのにどういうことでしょう。まあ,ロイターの記事は,LL社の発言ではありませんし,もし,限定適用するなら,権限のある人が公式ブログで説明して,TOSもきちんと整理すべきでしょう。

LL社には,法律顧問(当然しっかりとした人がいますよねえ?)と相談して,早急にTOSを整備することをお勧めしたいと思います。