2008年1月8日火曜日

仮想世界の法とかもろもろ(補足)

前回,前々回の記事を書いて,少しその前提を説明しておいたほうがよかったり,少し言葉足らずだったりしたところがありますので,補足させていただきます。

1 仮想世界の法について

仮想世界内の出来事であっても,実体は,生身の人間同士の社会関係でありますから,必ずどこかの国の法律が適用されることは間違いありません。じゃあ,どこの法律なんだという質問をされるかもしれませんが,これは多国籍な人が交流する仮想世界においては,そう単純な話ではありません。

いまの世界には,統一世界政府も統一世界法もありませんから,世界の各国が,各自の主権に基づいて,それぞれに立法し,それぞれに法を適用している状態であることはご承知のとおりです。国際的な私人同士の紛争をどう扱うかについても,この状況は変わりません。

まず,どこの裁判所で裁判するかという問題(国際裁判管轄の問題)があります。これについても,条約とかはないので,各国が各国の法律や考えに従って,取り扱う事件を決めています。だから,ある紛争が,A国の裁判所でも,B国の裁判所でも係属し,その判断が矛盾することもあります(国際二重起訴)。

次に,管轄裁判所が決まったとして,その裁判所が,どの国の法律を適用するか(準拠法の問題)についても,各国が各国の法律に基づいて,適用法律を決めており(必ずしも当該法廷地の法律が適用されるわけではありません。),これについても世界的に統一された条約のようなものはありません(ハーグ国際私法会議で部分的にいくつかの条約はできていますが)。

したがって,A国の人とB国の人の間で生じた紛争は,A国の裁判所で,A国又はB国又は別の国の法律により判断されるか,B国の裁判所でA国又はB国又は別の国の法律により判断されるか,いろいろあり得ます。これを各国がバラバラに(ある程度の共通項はありますが)決めているのです。

こんなことでは,安心して企業活動ができませんよね。そのため,LL社でもそうですが,グーグルなど世界的なサービス活動をしている企業が顧客と締結する約款(規約)には,必ずといっていいほど,管轄裁判所,適用法についての合意条項が入っています。これは重要な意味があるのです。

だから,セカンドライフで外国人相手に,SIMのレンタルや仮想土地の売買など大きな商売をするのであれば,covenant(規約)などに,少なくとも管轄裁判所の合意(自分の近くの裁判所が合理的です。),準拠法(日本人なら日本法にすることが多いはずです。カリフォルニア法?自信があるならどうぞ。)の定めを置くことをお勧めします。そのほか,どんな当たり前のことでも,争いが生じそうなことはなるべく契約条項に入れておいた方がよいです。

日本人限定の商売なら,そこまで気を遣わなくてよいかもしれませんが,日本語を使用していたからって,その人が日本国籍とは言い切れませんので,安心はできません。


2 セカンドライフ内の仮想土地の所有権について

セカンドライフ内の仮想土地の所有権という言葉を注釈なしに使いましたが,仮想土地の所有権といっても,これはLL社に対して,仮想空間の一定の部分をある程度の自由度で利用できる権利であって,要するにサーバーの利用権にすぎません。LL社から直接に利用権を設定された人を所有権者といってよいかもしれません。

これに対し,仮想土地の賃借権等の使用権ですが,これは,そのようにLL社から利用権を受けた人からの,利用権の又貸しに過ぎません。もともとの利用権(仮想所有権)が親亀なら,その上に乗っている子亀のような関係にあり,もとの仮想所有権者が権利を失ったら,使用権も消滅する関係にあります(親亀がこけたら子亀もこける)。

そうすると,プライベートSIMの土地の売買は,SIM全体の譲渡を受けない限り,SIMオーナーの仮想所有権の上に乗っかっただけのものにすぎませんので,これを所有権と表現するのはおかしいと思います。せいぜい無期限使用権というほうが間違いないと思います。

3 プライベートSIMの二重売買の危険について

メインランドの土地は,代金支払と同時に所有権が移転されるシステムをとっており,これが紛争予防に役立つことは前に述べました。しかし,プライベートSIMの売買(SIM自体の売買を指します。)には,このシステムは取られておらず,LL社は,前所有者と新所有者の共同申請によってSIM移転の手続を行うが,当事者間の代金の授受には一切関与しないシステムになっています。

そのため,代金を支払ったのに,SIMが譲渡されないとか,逆に,SIMを譲渡したのに,代金を支払ってくれないとかが生じ得ますし,それをシステム上回避できないのです。もちろん二重譲渡の危険もあり,そういう事件も起こったようです。

これを回避しようと思ったら,エスクローサービスなどを利用するしかありません。

これについても,こうした危険を避けるシステムを作ることは,多少手間ですが,可能だと思います。それをしていないのは,LL社がプライベートSIMの譲渡流通がそう多いとは考えていなかったからかもしれません。これも文句があれば,ガンガン言えばいいと思います。