2008年1月6日日曜日

仮想世界のシステムと規制

前に,仮想世界は,一旦紛争が生じると,リアルの法に従った処理が困難であるため(決して法適用がないわけではないですよ。),紛争予防が重要であるという記事を書きました。

しかし,仮想世界には,リアルと異なった良い点もあります(良いといえないかもしれませんが・・・)。それは,システムによる規制が容易であることです。ローレンス・レッシグは,「CODE」の中で,ネット社会におけるアーキテクチャ(コード)の規制に着目することの重要性を指摘しましたが,ネットの中に生まれた仮想世界は,まさにシステム(アーキテクチャ)による規制が大きな力を持っています。

リアルだと,どんなに警察が頑張っても,窃盗を無くすることはできませんが,セカンドライフにおいては,人の物を奪うことはできません(コピーは別ですよ。)。これは,そういう風にシステムが設計されているからです。ですから,リアルと異なり,窃盗を処罰する必要がありません。これは当たり前のように思うかもしれませんが,人の物を奪うことが可能なように設計されているゲームもあります(ウルティマオンラインなど,これはこれで面白いですがw)。

リアルだと,いきなり変な人にからまれて,暴力を受けるという危険がありますが,セカンドライフでは,ダメージ許可エリアでしか,アバターにダメージを与えることができません。したがって,そういうエリアに入らなければ(ほとんどの地域がダメージ不許可ですよね?),不当に攻撃されるおそれはありません。ですから,アバターを攻撃するという行為は,もっぱら嫌がらせ的な意味しかありません。これは,もっと徹底するなら,およそアバターにダメージを与えることができないという設計にしてしまうことも考えられ,実際にそういう仮想世界も存在します。しかし,そういうことをすると,戦争ごっこや斬り合いなどができなくてつまらないですよね。だから,ダメージ許可もできるようにしたのだと思います。この当たり,セカンドライフは基本的にゲームなんだなあと思うところです(もちろん,そこが好きなんですよ。)。

リアルだと,土地を人に賃貸して,賃借人が賃料を滞納して,任意に退去してもらえない場合には,どうしても裁判手続が必要ですが,セカンドライフのプライベートSIMのレンタルだとどうですか?滞納した賃借人がいたら,ポチッとクリックすれば,一気に土地から追い出すことが可能です。単に賃借人が気にくわないという理由だって,追い出すこと自体は,システム的には容易です(それが正しいかどうかは別として)。これは,SIMオーナーに,絶対的な権利を付与するように設計してあるからです。いわば王国の王というわけですね。実際に,ロールプレイでそのように振る舞うこともできます(国民が逃げ出さなければw)。

リアルだと,例えば日本では,賃借人の権利は,借地借家法などで守られています。建物の賃貸借,建物所有を目的とする土地の賃貸借など,一定の要件を備えれば,仮に,賃貸人が不動産の所有権を譲渡しても,新所有者に賃借権を主張できます。これと同じことを,システム的に採用することも可能です。例えば,プライベートSIMのオーナーが交代した場合において,前の所有者が承認した賃借期間については,新オーナーは,賃借人を退去させることができないという風にシステム設計することも可能です。しかし,現状は,システム的には,そうはなっていません。そもそも観念上,賃貸借という合意ができても,システム的には土地の賃貸借という設定ができません。そのため,実際は賃貸借なのに,仮想土地の所有権を譲渡し,退去時に仮想土地の所有権を返却するということが行われています。

プライベートSIMの土地の一部の譲渡というのは,システム的にはレンタルと全く変わりません。所有とかいっても,いざとなったら,SIMオーナーによってどうとでもなるのです(ちょっと言い過ぎかも)。

これらのシステムを決めているのは,何でしょうか?一つには技術的な問題があります。あまり複雑なシステムは,コスト的にも大変ですし,ユーザーも使いこなせないでしょう。もう一つは,価値判断があります。賃借人の保護はその程度でよい(少なくともシステム的には),といった価値判断です。

では,誰がそういった価値判断をしているのでしょう。リアルでは,多くの民主国家では,わたしたち自身が,その代表を通じて法や社会制度を決めています(代表民主制の機能に疑問があるとしても,少なくとも建前的にはそうです。)。仮想世界では,誰が決めているのでしょう?もちろん,仮想世界を運営する会社です。ユーザーはシステムが嫌なら利用しなければよいというのです。その意味で運営会社も市場によるコントロールを受けるということがいえます。だって,お客が不満持って,よそにいったら,大変でしょう。ある程度は,運営会社もユーザーの意見を聞く(少なくとも聞くふりをする)必要が出てくるわけです。民主制は無理でも(だってそんなこと運営会社がするわけないでしょう。),啓蒙君主にはならないといけないわけです。そういう意味からすると,ユーザーが文句をいうことは大事だと思います。例えば,セカンドライフの歴史で,プリム税が廃止されたのには,ユーザーの反対運動が大きかったようです(セカンドライフ公式ガイドでは,このことを「革命」のように書いていますが,社会システムがプリム税以前と変わっていないことはご承知のとおり。LL社がプリム税を廃止したのは,そのほうがユーザーを獲得できるというビジネス判断だと思います。)。

紛争予防ということでシステムを捉えましたが,運営会社側が,紛争解決システムを提供することも可能です。例えば,個人オークションサイトのイーベイでは,紛争処理にスクエア・トレードによるADRのサービスを利用できるようにしています。セカンドライフだって,LL社自身がADR組織と提携して,そういうサービスを提供することは可能です。そのようにしていないのは,LL社が,その必要がないと判断しているからにほかならないわけで,その判断にユーザーが影響を与えることも可能です。