リンデンラボ社はセカンドライフ内銀行を原則禁止
1 はじめに
リンデンラボ社(LL社)は,公式ブログで,セカンドライフ内において銀行業務を実質的に禁止する方針を発表しました。
公式ブログの記事
翻訳サイトの翻訳
2 銀行規制の内容
今回の規制の内容は,要約すると,
① セカンドライフ内において,利息又は直接的な利益を申し出て,投資(リンデンドルであるか,リアル通貨であるかを問わず)を受け取る行為は原則として禁止される。
② 上記規制は,2007年1月22日から施行される。
③ 政府の権限ある機関から適法に認可された銀行が行う場合は許される。
ということになるかと思います。
①は,利息を与える行為自体は,何ら害はないのですから,利息を与えることを約束して,投資を受ける行為が禁止されていると解釈すべきです。
問題は,友人から金を借りるなどの個人間で行う取引でも禁止されるかどうかです。今回の規制が銀行を直接の対象としていることからすると,業として行う場合だけが規制の対象となっているように思えるのですが,文章上は明確ではありません(英語力自信なしw)。「不特定多数から」預金を集めるとか,「業として」とかいう文章にしたらいいのにね。
③の例外として,ほかに,インワールドで金銭の授受をしないで,マーケティングや教育活動を行うだけの場合は除外と書いてありますが,それが規制の対象とならないのは当たり前と思いますので,要約からは省きました。
3 銀行規制の趣旨
LL社は,昨年8月の「Ginko Financial」破綻以降,「銀行」による不履行に関する苦情を数件受理してきたことを踏まえ,高利率をうたい文句にして,預金者を食い物にする詐欺的な銀行を放置したら,バーチャル経済の不安定化につながることから,今回の規制に踏み切ったと説明しています。
全面禁止でなくて,何らかの監督権限を及ぼしたらどうかということについてはKnowledge BaseにFAQがあるのですが,それをみると次のようにあります。
Why not “virtually regulate” these “banks,” instead of banning them?
Linden Lab can’t and won’t become a virtual “banking regulator.” Banking regulation ? whether in the “real” or “virtual” world ? is complex and intensive, and is a government activity. Linden Lab is not empowered to regulate the businesses of banking or securities. We can and will take steps, however, to ensure the stability of the Second Life economy, and that is what we are doing.
平たく言うと,「銀行を監督するなんて,そんな政府がやるような複雑で専門的なことやってられませんって」ということでしょうか。TOS上は,LL社が,そういう権限を持つことも可能な気がしますが,もちろんインワールドに限ってですけど・・・
GINKO破綻のときに,わたしのブログ記事で,セカンドライフ内銀行への監督の必要性を強調しましたが,こんなに遅く,しかも,こういう形で(全面禁止)規制がされるとは,ちょっと驚きです。
それにしても,昔のフィリップの発言
Philip Linden: I would note that there is a lot of transparency around projects like Ginko.「GINKOのようなプロジェクトの周りには,多くの透明性がある」
この言葉が耳について離れません。まあ,わたしもよく物を忘れますが。
4 規制実施の影響とLL社の対策
LL社は,セカンドライフ内「銀行」のバーチャルATMなどのオブジェクトを2008年1月22日以降全て削除することになるとして,その施行日までの間に,「銀行」の運営者に預金の払戻しに応じるよう勧告しています。もし,施行日以降も銀行業務が行われている場合は,アカウントの停止,剥奪,土地の没収などの制裁措置が取られると警告しています。
しかし,ロイターの記事にあるとおり,リアルの銀行が預金者全員に一度に預金を返済するような資金を準備しているわけではないように,ましてやセカンドライフ内銀行は,おそらく十分な返済資金を持っていない銀行が多いと思われます。
また,本当に詐欺的な業者は,この規制を受けて,資金をいち早くセカンドライフ外に持ち出そうという動きをみせるものと思われます。
ですから,かなりの預金者が預金の払戻しを受けられないまま放置されるという事態が起こる可能性が高いと思います。
これについてのLL社の措置ですが,Knowledge Baseをみると,それら被害を受けた預金者が,「銀行」の経営者を相手として民事上の訴えを起こしたり,刑事処罰を求めたりする場合に,司法当局などに記録を提出するなどして協力するとしています(そんなの当たり前だって・・・思わずツッコミ)。しかし,それら業者の資産を凍結したり,LL社としてそれ以上の補償をすることは考えていないようです。
5 もっと根本的な問題
今度の措置による経済的な影響は,ギャンブル禁止以上のものがあると予想します。
わたしとしては,この規制がどういう法的根拠で実施されるかということが気になります(TOSの改正をするのだろうと思いますが,LL社のやることは不明朗です。)。また,個人間の取引や株式などほかの経済取引を対象にしないことなど,規制の内容をもっと明確にしてもらいたいと希望します。
ただ,前にもいいましたが,もっともっと奥にある根本的な問題を意識します。
LL社が,わたしたちの経済活動や生活に重大な影響のある決断を,ある日突然,何の相談もなくして行ったとして,わたしたちは,唯々諾々と従わなければならないのでしょうか?
それが結果として適切ならば,いいのでしょうか?
これがいやなら,セカンドライフをやめればいいのでしょうか?
たくさんの友だちができたり,たくさんのリアルマネーを投下して商売をしたりしているのに?
ここにたしかに一つの社会が形成されつつありますが,わたしたちは,その社会システムの形成に影響力を及ぼすことはできないのでしょうか?
ひとりひとりの心の中に生じた疑念が,いつか大きな力となるような予感がします。
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