Water Under the Bridge
セカンドライフ内で金利付きの預金受入業務(正確にいうとこうなりますが,面倒なので,単純に「銀行」業務ということにします。)が禁止される1月22日まで数日を残すだけとなりました。
良心的な「銀行」経営者は,預金払戻しを告知し,資産を処分して,払戻しの準備をしているようですが,高金利をうたっていた「銀行」の中には,夜逃げを決め込む者もあるでしょうから,預金の一部は返還されないままとなることが予想されます。預金払戻し騒動が一段落したら,次はリアルの訴訟問題に発展することも予想されますが,リアルで預金の回収を図ることは大変なことだと思います。まず,被告のリアルの人格を特定する作業が大変なことは,これまでの著作権侵害訴訟の記事で取り上げたとおりです。仮に,被告の特定ができても,訴えを起こす場合は,おそらく「銀行」経営者の所属国で訴えを提起することになると思われますので(くわしい説明は省きます。),「銀行」経営者が外国にいる場合はかなりの困難が予想されます。
前回のギャンブル禁止のときも唐突だったように思いますが,ギャンブル禁止の場合は,一般ユーザーへの影響は軽微です。しかし,「銀行」禁止の場合は,預金が返還されないおそれがあるという問題があり,SL経済全体への影響も合わせると,一般ユーザーへの影響は決して小さくないと思います。
このため,禁止の告知から,その発効まで2週間しかなかったのは,周知期間,猶予期間として十分であったかどうか議論の残るところだと思います。
GINKOが破綻して,SL内「銀行」に関して注意を呼びかける記事が公式ブログに載ったのは,2007年8月14日です。それから,今回の規制まで約4か月ちょっとありましたが,この間に「銀行」についての苦情がたくさん寄せられていたということなら,もっと,一般ユーザーに警告を与えるような発表ができなかったのかなあっていう感じがします。この間に,少なくとも公式にはあまり動きがなかったことから,今回の規制が唐突な印象を与えます。この間に,LL社が否定的なメッセージを出し続けていれば,新規に(まっとうな)「銀行」業務を行うようになった人や,それらの「銀行」に預金をするようになった人が,考えを変えた可能性もあります。
また,LL社は,今回の措置を実施する前に,もっとユーザーの意見を聞くべきであったように思います。わたし自身は,リアル法で,消費者保護の観点から,銀行が一般的に免許制であることからして,セカンドライフ内でも一律に禁止して一定の要件を備えた者だけに免許を与えるという方式それ自体は,十分合理性のあるものだと思います。また,LL社は,TOSを一方的に変えたり,リンデンドルの交換等に関して一般的な規制をしたりする権限がありますし(もちろん,リアル法に反しない限りで),セカンドライフ内で「銀行」の名を騙った詐欺的な行為を防止する社会的責任があることも事実ですから,「銀行」規制自体は,十分正当性のあるものだと思います。しかし,どこまで規制するのか,免許の方法など,「銀行」規制の方法などについては議論のあるところですし,4か月も時間があったのですから,もう少し意見を聞いてもらってもよかったのだろうと思います。LL社は顧客満足度を重視していくという方針のようですが,個々のクレーム処理だけでなく,こうした全体に関わる規則の変更などについても,もっとユーザーの意見を聞くようにしてもらいたいと思います。まあ,ほかのネットゲームの運営会社に比べたら,LL社はかなりましな方だと思いますが。
今回の件で一番気になるのは,リアルの銀行免許のある者にだけ,セカンドライフ内で預金を集めることができるとした点です。
リアル法に委ねるといっても,国によって規制は千差万別です。リアルでも簡単に銀行を設立できる国もあるように聞きます。一般的には,消費者保護の観点から銀行設立には厳しい要件を課している国が多いようですが,だとしても,各国で規制が分かれている以上,LL社がきちっと要件を絞って,LL社が判断すべきだと思います。
わたしは,セカンドライフが,ここまで多くの人の支持を集めたのは,ただ企業の宣伝だけじゃなく,ユーザーに自由にコンテンツを作らせ,その自由な販売を認めたところにあると思います。それによって,一つの企業だけでは到底作れないような,たくさんの創造性にあふれる魅力的な世界ができるようになったと思います。そして,今日では,ユーザーの創作能力はとても高くなり,本当に素晴らしい物が作り出され,これが今のセカンドライフの世界を豊かにしていると思います。
セカンドライフのルール作りについても同じことがいえると思います。SIM単位の自治はユーザーに任されているとしても,今回の銀行規制のような全体のルール作り等には,ユーザーの意見は,まだまだ,あまり反映されているようには思えません。しかし,ユーザーの中には,ルール作りとかが得意な人もたくさんいます。政治,行政,経済,法律などの専門家もいます。LL社の職員だけでルール作りを考えるよりも,こうしたユーザーの知恵を生かすべきだと思います。もちろん企業の利益のために譲れない部分もありましょう。でも,ユーザーから意見を募れば,結構,よいアイデアが出てくるかもしれません。ビューアーの機能向上とかについてはJIRAとかで意見を聞いて,開発に反映させているのですから,ルール作りについても,同様のことができないことはないはずです。
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